イルカ先生がアスマを誘って飲みに行くと言う。
え、なんで。
もう髭なんてどうでもいいじゃないですか。
晴れて恋人になった二人の邪魔者でしかないんですよ?
そう言おうとして更なる衝撃を受けた。
「それで、アスマ先生に告白して……」
アスマに? アスマに!?
それはイルカ先生がアスマに告白するってことなのか!
じゃあ今までの俺の告白は? あんなに一緒になって考えてくれていたじゃないか。
練習に合格までした。そう、練習。
はっ、もしかしてこれは踏み台!? 今のを雛形にイルカ先生がアスマに告白するということか。
それじゃあ俺は告白する協力をしていたただの間抜けってことじゃないか!
そんなのあんまりだ。
さっきまで一喜一憂していた自分は何だったんだ。まさかそこまで酷いことをされるとは思ってなかった。
いくら好きじゃない人間だからって……いや逆に、気づかないうちにそこまで嫌われていたということかもしれない。そして俺なんかより髭面の熊なんかがいいってことなんだ。
「アスマは駄目ですよ」
駄目に決まってる。
「あいつは紅と付き合ってます。どんな告白しようと、どう足掻いたって無理なんだから」
先程のショックからどうしても冷たい言い方になる。
イルカ先生は最初ぼんやりと俺の顔を眺め、それから目を大きく見開いて叫んだ。
「アスマ先生って紅先生と付き合ってるんですか!?」
やっぱり知らなかったんだ。
ちょっと安心した。思わず安堵の息を吐く。
だってそうじゃないか。これで諦めてくれれば万々歳だ。
恋人のいる男なんて忘れてしまえばいい。
「だから俺に」
しておきませんかと言いかけて、それは実行できなかった。
イルカ先生がすみませんと謝って、すごい勢いで走り去ってしまったから。
目には涙が滲んでいた。
こういう時、上忍の鋭い観察力を持っている自分を恨みそうになった。
泣かせてしまった。
たとえアスマに恋人がいるのが事実でも、言い方ってものがある。もっと衝撃を受けない伝え方だってあったはず。それを自分の感情で最悪な告げ方をしてしまった。傷つけた。
本当はイルカ先生が告白しても全然無駄じゃないかもしれないと俺が疑っているから。ほんの少しの可能性の芽でも摘み取っておきたかったから。
でも、結局それは無駄な足掻きなのはわかっていた。
イルカ先生は相手の心の中に好きな人がいようがいまいが、自分の心を簡単に変えられるわけがない。俺がそうであるように。


●next●
●back●
2007.12.15


●Menu●