「んー、まぁー、アレだ。なんていうか、カカシはああ見えても結構ロマンチストというか…」
「ああ、なるほど。そういえばそうですね」
「だから、なんていうかだな。クリスマスに夢を持ってるというか…」
さすがのアスマも歯切れが悪い。説得といってもどうしたらいいのかわからない。
イルカも『クリスマス』という言葉を聞いて、やはりその話かという顔をした。途端に表情が曇る。
紅がなんとかせねばと話を続けた。
「カカシはクリスマスついてに何か言ってないかしら」
「……ええ」
「イルカも大変だとは思うが、たまのことだしな。奴の望みを叶えてやってくれないか」
「でも……俺にはちょっと」
「まあ、そんなこと言わずに。ほら!せっかくのクリスマスだし、恋人同士なんだから。ね?」
「それはそうなんですけど。でも俺にも都合ってものが…」
「そりゃあ、忙しいのはわかるけどな。こういうのはもっと思い切ってだな」
「俺だってそんなに欲しいならあげたいと思ってますよ。でも今からじゃあ間に合わないでしょう?」
あげる?間に合わない?
何が間に合わないのかさっぱり理解不能だ。なんだか微妙に会話が噛み合ってない。
だんだんと嫌な予感がしてくる2人。
もしかして何か勘違いしていたのだろうか。
「イルカ先生ー!1」
「あ、カカシ先生」
イルカがいるところにはどこからともなく現れる上忍。
「なんでコイツらと飲んでるんですか。俺というものがありながら!」
「アスマ先生と紅先生には日頃お世話になってますから」
「お世話なら俺がしますから!」
「いえ、そういう話ではなくて」
「そんなことよりも!この前の話、考え直してくれましたか?」
2人のやりとりをぼんやり聞いていたアスマ達は、まだ説得できてないうちに現れたカカシを心の中で罵っていた。
もっと後からくればいいものを。タイミングが悪すぎる。
そう思いながらも、心優しいイルカがいい返事をするかもしれないという希望を抱いて話を聞いていた。
「カカシ先生。今日は何日だと思ってるんですか。そんなに欲しいんだったら、どうしてもっと早く言わないんですか」
「だって!俺達恋人同士ですよ?てっきりイルカ先生は用意してくれるものだとばかり……」
「カカシ先生には当たり前のことかもしれませんが、俺の常識には含まれていませんでした」
「ええっ!そんな馬鹿な!」
「カカシ先生。だいたい俺は編み物なんてしたことないんです。クリスマスまでに手編みのセーターを編み上げるなんて物理的に無理があります1」
「そこを愛の力で何とか!」
「何ともなりません」
てあみのせぇたぁ。
アスマも紅も意味を理解するのにかなりの時間を要した。
ああ、手編みのセーターね!
ようやく脳がその言葉を理解した頃には、『噂など信じるものじゃない』という教訓すら頭に浮かんだ。
ぽん。
と両肩をたたかれてイルカは少し驚いた。アスマと紅が両脇からイルカを囲んで言った。
「イルカ、すまなかったな。俺達が間違っていた。カカシの言うことなんぞ二度と聞く必要はない」
「ア、アスマ先生」
「そうよ、イルカ先生。私達が無責任に言ったことは忘れてちょうだい。その代わり奴を撃退してあげるから、許してね」
「紅先生…」
「カカシ。アンタ、手編みのセーターが欲しいんですって?」
「むろんだ!恋人同士といえば手編みのセーター。これは譲れない!」
「残念ね。それは一生無理よ」
「どうしてだ!」
「アンタ。前に女から貰った手編みのセーター、どれだけ捨てたと思ってるの。いくら知らない女からだからって燃やしたのもあったじゃないの」
「そんなこと言ったって、知らない女からの手編みのセーターなんて怖くて着られるか!怨念こもってそうじゃないか」
「……そう。まさに怨念がこもっていたのよ。アンタに思いを寄せていた女の怨念故に、相思相愛になったイルカ先生がセーターを編もうとするとおそろしい呪いが!ああ!可哀想なイルカ先生。呪いのせいでセーターを編もうとすると死に至ってしまうのよ!」
「ええっ!!うわーん。やだやだ、イルカ先生。死んじゃやだよー!!」
「大丈夫よ、カカシ!安心して。セーターさえ編まなければ死ぬこともないわ」
「そ、そうかっ。わかった、紅。教えてくれてありがとう!」
「どういたしまして。ホホホホホ」
とりあえずセーターは編まなくてよくなったらしい、と知ってイルカはようやく安堵した。
そして同時に紅のことを尊敬のまなざしで見つめ、人生の師匠になって欲しい、と切実に願ったとか願わなかったとか。
END
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2001.12.15 |