【ケンカのわけは1】


「駄目です!できません」
周りにいる者が何事かと振り返る程、それは強い口調だった。
普段子供を叱る以外には声を荒げたことのないイルカが。
そう思って視線を向けると、イルカの目の前にいるのは銀髪の上忍だった。
イルカがあの『写輪眼のカカシ』と付き合っているというのは周知の事実で、里で知らない者はいない。
「どうしてですかっ。俺達恋人同士じゃないですか。そんなこと言うなんて。俺のこともう嫌いになったんですね!?飽きられてゴミクズのようにポイッて捨てられるんですね!」
どうやら別れ話らしい。というかカカシが勝手に言いだした感があるが。
イルカは、といえば。強く拒否してみたものの、カカシが騒ぎ出したため、かなり困っていた。
ため息をつきながらカカシをなだめている。
「そんなこと言ってないでしょう」
「それじゃあ!」
パァッと顔を輝かせるカカシに、イルカはやはり無理だと答えた。
「イルカ先生のバカーッ!!」
カカシは叫びながらものすごいスピードで走り去った。
その場にはイルカのため息だけが取り残されたのだった。


『イルカとカカシが喧嘩中らしい』という噂が里中に広まるのに時間はかからなかった。 原因についての憶測が辺りを飛び交い、根も葉もない作り話があたかも真実のように語られた。
イルカを可愛がっている火影様が『カカシと別れろ』と言いだして、生真面目なイルカが『火影命令ですから』とカカシをふったからだの。
イルカがナルトと二人きりでラーメンを食べに行ったのをカカシが責めて、イルカが怒ったからだの。
さまざまな説が出ていたが、その中でもっとも有力なものは、カカシがイルカをクリスマスイヴにデートに誘ったが、仕事第一のイルカが『残業だから無理です』と断ったという説だった。
いつもカカシとつるんでいるアスマも、その説の信憑性をかなり信じていた。
確かにアカデミーが休みに入るとはいえ、年末年始にかけて任務受付は目も回るくらい忙しい。
仕事優先でデートなどしてる暇はないのはわかる。
しかし、カカシが仕事よりも恋人の自分を優先してほしいと思うのも致し方ない。
今まで女性ともろくに交際したことのないようなイルカに、カカシの言動はかなりの負担だろう。
だがしかし、もうつきあい始めて早何ヶ月。少しは奴の気持ちを思いやってもいいはずだ。
なんといってもカカシが『イルカ、イルカ』と五月蠅い上に鬱陶しくて、もう勘弁してほしい。これから逃れられるなら、悪魔に魂を売り飛ばしてもいい気分になっていた。だが、待っていても悪魔はのこのこやって来てはくれない。
仕方がないので紅を巻き込んで、イルカを説得すべく飲みに誘ったのだった。
「まずは飲もうぜ、イルカ」
「そうそう。はい、どうぞ」
「あ、すみません」
3人でやって来たのはいつも馴染みの居酒屋。静かすぎるとイルカも緊張して良くないだろうという配慮だった。


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