「イルカ。そりゃあちょっとあんまりじゃないのか」
アスマがそう抗議するとイルカは顔を赤らめ、俯いた。
「やっぱりそうでしょうか。俺も少し派手じゃないかと思ったんですけど」
派手?
「そんなことないですよ、イルカ先生!灰と赤の縞模様なんて素敵じゃないですか。今の流行なんですよ」
とモクレンがイルカのことを励ましている。
縞模様?流行?
会話が理解不能だ。
アスマは嫌な予感がしていた。
これはもしかして、もしかする。
自分は去年のクリスマスと同じ過ちを犯してしまったのではないか。
そんな気がしてきた刹那。
「イルカ先生。それ、もしかして……」
カカシが指さしたのは、イルカが手にしている灰色と赤色の縞々の塊。
「セーターは無理ですけど、腹巻きぐらいなら、と思って」
はらまき。
腹巻きか…。
アスマの心の呟きは口に出されることはなかった。
猛烈な脱力感に見舞われ、その場に座りこんでしまったとしても。
「それを俺のために?」
「ええ。去年は間に合いませんでしたけど」
「でっ、でも、イルカ先生はセーターを編むと死んじゃうんじゃ……」
「セーターだと死ぬかもしれませんが、腹巻きなら大丈夫ですよ」
にっこり笑うイルカ。
カカシが眼に涙を浮かべ、感激のあまり震えているのがわかった。
「イ、イルカせんせーい!!」
ガバリと抱きつかれてイルカは目を白黒させていた。
「俺、俺っ。嬉しいです!!」
ギュウギュウと抱きしめられてかなりの痛みをともなっているにもかかわらず、イルカはカカシのしたいようにさせていた。
「そんなに喜んでもらえると、俺も頑張った甲斐があります」
「そうですよ。イルカ先生、そりゃあ頑張ったんですから、ね」
モクレンが口を挟む。
「モクレン先生には編み物を最初から教えてもらって助かりました。今日も仕上げのところがわからなくて教えてもらっていたんです。でも完成して良かった。少し早いですけどバレンタインのプレゼントです、カカシ先生」
「ありがとうございます!早速!」
「ああっ、やめてください。制服の上から着たらのびちゃいます!」
「えー、だって下に来たらせっかくの腹巻きが見えないじゃないですか」
「見えなくて結構です!せめてベストの中に着てください。お願いですから」
「わかりました!そのかわりよく見えるように、前は全開にしておきます!」
「やっ、やめてください!恥ずかしいですから」
「俺は恥ずかしくありませ〜ん」
おいおい。その色じゃ目立つだろうに。
目立つ忍びなんて何の役に立つってんだ。
アスマの心のツッコミはまたしても口には出されなかったが。
腹巻きをして自慢げなカカシの姿が見えた。
カカシが世間一般の常識をかなり外れているのはわかっていたことだ。イルカがそれをものともしないほどの心の広い人間だということも。
そこではた、と思い至った。
よくよく考えてみれば、あの責任感の強いイルカが、この人生のオチこぼれのような男を途中で放り出したりするわけがなかったのだ。馬鹿な子ほど可愛いという典型的な例だろう。
ホントにめんどくせぇ奴らだ。
この先たとえ本当に別れ話が出たとしても、今後一切この二人には関わらない。
腹巻きを見つめながら、そう心に誓ったアスマだった。


END
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2002.02.09


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