「最近イルカ先生が冷たいんだ」
どんよりと澱んだ空気をまとったカカシの相談相手は、猿飛アスマだった。
吹きっさらしの外のベンチに男二人で座って何やってるんだ、とアスマも思わないでもなかったが、カカシのあまりの落ち込みようになかなか本音を言い出せないでいた。
「飲みに誘っても『用事がある』とか言って全然付き合ってくれないし。イルカ先生ん家に上がろうとしたら『絶対駄目です』とか言って入れてくれないし」
「あー、そりゃあやっぱり……」
「うわー!うわー!聞きたくなーい!!」
両手で耳をふさいで大声を出し、アスマの言葉を聞かないようにしている姿は滑稽でもあり、哀れでもあった。
そりゃあやっぱり。愛が冷めたってヤツだな。
そう言おうとは思ったが、それを止めたということは自分でもわかっているということだ。 追い打ちをかけることもあるまい。
アスマはそう思った。
大体この非常識男があの常識人の中忍と付き合うということ自体が、謎なのだ。
今まで保ったのが里の七不思議の一つ、と言われているくらいだ。
「モクレン先生。今日も家に行ってもいいですか?」
「ええ。もちろんいいですよ」
遠くでイルカの声がする方角を見れば、同僚の女教師と仲良くならんで歩く姿がある。
モクレンといえばしとやかで家庭的だと評判で、なかなか人気のあるくノ一だ。
その女の家に今日も行く、という。
「イルカ先生……」
思わず口をついて出たのであろうカカシの声は、呆然とする中にも悲しい響きが混ざっていた。
二人はこちらには気づかず、笑いながら去っていった。
アスマがカカシのほうを窺うと、泣いているのがわかった。
ぼろぼろと大粒の涙がこぼれる。
「う、うーーっ……」
恥も外聞もなく子供のように泣く姿を見て、アスマはイルカに対して憤りを感じていた。
たしかにカカシはどうしようもない奴だが、別れてもいないのに女の家に通うのはどうかと思う。
振るなら振るで、もっとやり方があるだろうに。
「おい、カカシ。行くぞ」
「ひっく。どこへ」
「もちろんモクレンの家に決まってるだろうが」
嫌がるカカシをひきずって、ようやく家にたどり着いた頃には日も暮れていた。
ピンポーン。
「はーい、どちらさま?」
軽やかな女性の声。
「邪魔するぜ」
「カカシ先生!アスマ先生!」
驚いた顔をしたイルカがそこにはいた。
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