「あ。こんなところにあったんだ」
嬉しそうに。
本当に嬉しそうに笑った。
やっぱり好きな人に違いない。
なんてことだ。
ブサイクな顔をしたこの男を密かに想っているというのか。
こんな男に大事なイルカ先生をかっさらわれるなんて冗談じゃない!
そう思ってはみたものの、イルカの表情は幸せそうで、カカシは泣きそうになった。
それをぐっと堪える。
「俺の父です」
嬉しそうに写真を胸に抱きしめたその姿。
「お、お父さんですか」
「はい。カッコイイでしょ?」
あ。
そうか。
そうなのか。
イルカ先生のカッコイイはそういう基準だったんだ。
きっとずっとそういう意味だったんだろう。
いつも想っていたのは父親だった。
それを俺は顔なんかにこだわって馬鹿だ。
好みの顔なら告白しても振られたりしないだろうと思った。
振られるのが怖くて、イルカ先生の好みの顔になりたかったんだ。
顔なんかじゃなくて好きという想いが大切だったのに。
「カカシ先生?」
黙り込んでしまったカカシを気遣うようにイルカが声をかける。
その心配そうな顔を見て、カカシは心を決めた。
「イルカ先生」
「はい」
「俺はあなたのお父さんのようにカッコよくないし、みっともないかもしれないけど。 …でもあなたを想う気持ちは誰にも負けません。
あなたが好きです」
今まではっきりと伝えたことはなかった。
気持ちを伝えなければ前には進めない。
そんな当たり前のことも、この人の前ではわけが分からなくなって何も出来なくなっていた。
きちんと伝えようと初めて思ったのだった。
しばらくの間驚きで見開かれていたイルカの眼は、微笑むために細められた。
「俺も、です」
カカシは意外な言葉が耳を通り過ぎていったような気がして聞き返した。
「え?すみません。もう一回言ってもらえますか。よく聞こえなくて」
「俺もカカシ先生のことが好きです」
「ええっ?だって、あの、俺はイルカ先生の好みの顔じゃないし……」
まさかそんな返事をもらえるとは思っていたなかったために、パニックに陥っているようだった。
そんなあたふたするカカシを前に、イルカは笑って言った。
「いつも『人間顔じゃない』って言ってるじゃありませんか」
「そりゃそうですけど…」
「それに、カカシ先生の顔だって見慣れればきっとカッコイイですよ!」
……じゃあ、今はカッコよくないんですね?
ちょっと泣きそうな俺。
けれどそれを上回る幸運に、もうどうでもいいかと思う。
緊張のあまり汗をかいてしまったので、カカシは口布も額あても外して汗を拭った。
そのとき。
「カカシ先生…」
「はい?」
「すごいですね、写輪眼って。初めて見ました」
瞳をキラキラさせてこちらを見入るイルカ先生。
も、もしかして写輪眼がイルカ先生の好みにヒットしたってことなのか!
ビバ、写輪眼!
今まで鬱陶しいとか、隠しておかないといつも回っててウザイとか思っててゴメンよ。
これからはエサもきちんとやるし、毎日のお手入れも欠かさないと誓う!
と、カカシは喜びのあまり意味不明なことを考えていた。
「なんかおたまじゃくしみたいで可愛いです」
おたまじゃくし…
誰もが羨む写輪眼を、おたまじゃくしって…
いや、もうなんでもいい!
イルカ先生が好きになってくれさえすれば。
写輪眼だってそれが本望のはずだ。
「イルカ先生が望むならいくらでも見せてあげますよ」
「本当ですか」
「もちろんです!だって今日から恋人同士ですから」
そう言うと、イルカは頬を赤く染めながら微笑んだ。
「嬉しいです」
こうしてカカシはようやくイルカと晴れて両想いとなった。


+++

たとえどれだけ本人が否定しようと、一度刷り込まれたものはなかなか修正はきかない。
だからこれからもカッコイイ人はイルカ先生の心を惑わすだろう。
でも、それでも。
どんなにカッコイイ人が来ても決して諦めたりはしない。
この世で一番イルカ先生を愛しているのは俺だということを刻みつけよう。
そうすればきっと恋に曇った眼は俺だけを見てくれるだろうから。


HAPPY END
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2002.06.15


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