「イルカ先生はナルトの顔はどう思ってるんですか」
子供達の顔はどんな風にイルカに写っているのか。
カカシは常々気になっていることを質問してみた。
「ナルト、ですか?そんな、顔なんてどうだっていいじゃありませんか」
あくまで表面上は『人間は顔じゃない』というだけあって、そういうところはきちんと否定した。
それは多分本当なのだ。
普段公的な場でひいきをするとか、そういったことはまったく見受けられない。
あくまで私的なときにブサイクな顔の人間にちょっと弱い。甘い。見惚れる。
そんな感じだった。
「…たしかにちょっと可愛いなって思いますけど」
「えっ。どういうところが」
「あの頬にある三本髭、可愛いですよねー」
「あー、アレね……」
そうか。アレが可愛いのか……。まあ、可愛いといえば可愛いが。
あくまでゲテモノ好きなのですね、イルカ先生。
カカシはどうしても引きつりがちな笑みを維持するのに必死だった。
そこへイルカがちょっと意外なことを言い出した。
「実は俺、カカシ先生のことが前から気になっていたんです」
「ま、マジですか!」
なにが起こったんだろう。
もしかして今までの念じてきた想いが伝わったのだろうか。
このあと、イルカの口から『好きでした』という告白が続くのだろうか。
いやいや、まさかそんな。
とカカシは否定しつつも、淡い期待に胸をふくらませた。
「だってナルトがいつも顔を隠してるのは、たらこ唇だからだとか鼻の下が異常に長いからだとか言ってたから……。ずっと気になってたんです」
「え」
「でもこの前、口布を外した顔を見たらぜんぜん違いましたね」
残念です、という言葉が聞こえてきそうなくらいだった。
それは好みの顔じゃなかった、ということですかっ。
カカシは口に出そうか出すまいか悩んでいたその瞬間に。
「いいですよね、たらこ唇…」
と少し夢見ているようなウットリした表情で呟くイルカ。
たらこ唇が?
たらこ唇がですかっ。
そういえばあの下葛という男は痘痕もあるが、たらこ唇でも有名だった。
『下葛先生って、チャーミングな分厚いたらこ唇なんですね。思わずキスしたくなります』
『そのための面積だ』
そんな妄想がカカシの脳みそを蝕んでいた。
「うわーん。俺もたらこ唇になってやるぅー!!」
「カカシ先生?」
突然叫びながら走り去るカカシをイルカは呆然と見送るしかなかった。
結局努力の甲斐もなく、カカシはたらこ唇にはなれなかった。
もちろん痘痕のある顔にも。
意気消沈しているカカシが職員室を訪れると、イルカが何かを探しているようだった。
「イルカ先生、何か捜し物ですか?」
「あ、カカシ先生。大事な写真がどこかにいっちゃって…困ったなぁ」
そう言ってごそごそと辺りをかき回している。
その拍子にひらりと舞った写真。
これが探しているものかもと思い、ついカカシがそれを見てみると。
ベースボールのようなでかい顔にたくさんの痘痕。たらこ唇。
これって。
まさにイルカ先生の好みそのもの。
それが今落ちたということは、肌身離さず持っているということか。
「イルカ先生、この写真…」
まさか。
これが探してるのじゃありませんように、と祈りながら震える手で写真を差し出す。
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