カカシは恋をしていた。
アカデミーの中忍教師イルカに。
しかし、それが成就するには大きな大きな壁が立ちふさがっていた。
実はイルカ先生は里でも有名なメンクイらしい。
メンクイなら楽勝だ!と喜んでいたカカシがメンクイの本当の意味に気づいた時から、苦難の道は始まっていた。
「イルカ先生。今晩飲みに行きませんか?」
「カカシ先生」
職員室で机に向かっていたイルカに声をかけ、今日も自分のことを印象づける為に努力を重ねていた。
「すみません。今日は仕事があって…」
たとえそれが申し訳なさそうに謝る姿であったとしても、こうやって顔を見れただけでもいいか、とカカシは思っていた。
が、しかし。
「頼まれたからにはきちんと仕上げないと」
と言う。
自分の仕事ではなく、人から頼まれた仕事だって?
そりゃあそういう真面目なところも好きだ。
だけど。
カカシは自分の頬がひきつるのを感じながらも、できるだけ雰囲気を壊さないよう質問する。
「頼まれたって誰にですか?」
「下葛先生です」
ぴしぃ。
カカシの固まった顔にひびが入る音が辺りに響き渡った。
やっぱり。
やっぱりあの男に頼まれたんだー!
「下葛先生ってカッコイイですよね」
少し照れたようにイルカが笑う。
「あんなカッコイイ人に頼まれると仕事にも気合いが入るっていうか。ふふ」
嬉しそうなイルカとは対照的に、カカシは今にも降り出しそうな暗雲を背負っている。
「そ、そうですか?下葛先生ってそんなにカッコよかったかなー」
「何言ってるんですか!カッコイイですよ!!」
一応抵抗を試みるがあえなく玉砕。
「あんなに痘痕がある人、俺初めて見ました。あのぶつぶつの顔、触ってみたいと思いませんか?」
瞳をキラキラさせて同意を求められるが、カカシにイルカの満足する答えを口にすることはできなかった。
今日受けた大ダメージは、そんなに簡単には復活できそうにない。
「イルカ先生、お仕事頑張ってくださいね…」
「はい、ありがとうございます」
イルカの明るい挨拶に見送られながら、よろよろと職員室を後にする。
痘痕って、痘痕って。
縷々と涙を流すカカシは、そう呟くことしかできなかった。
そう。
うみのイルカは普通ならばブサイクといわれる顔が好きなのだ。
自分をメンクイといって憚らないため、里では有名だった。
変な顔好き。
それはアカデミーの生徒まで知っていた。
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