以前は写輪眼のカカシなんて雲の上の人だと思っていた。
だって、暗部に在籍するのに名前が漏れ広がるほどの実力者。うちはでもないのに移植された写輪眼を使いこなすコピー忍者。伝説の数々。数ある噂の一つを上げてみてもどれもすごいもので、とても同じ世界に生きる人とは思えなかった。
そんなすごい忍者だからきっとお高くとまった人だろう。俺たち中忍なんて相手にもされないだろうと思っていたんだ。
けれど、ナルトたちの上忍師になったのをきっかけに知り合ったカカシ先生は、とてもいい人だった。
気さくに話しかけてくれるどころか、俺なんかを「先生」って呼んでくれるし。丁寧な物腰。からかわれているじゃないかと思えるほどへりくだった言動は、ほわんとした風貌で嫌みに見えない。
最近では顔見知りよりも親しくなり、よく顔を合わせるようになった。
出勤する時間が同じなのか、毎朝会うので一緒に歩くことが多いし。帰りは帰りでなぜか俺をよく飲みに誘ってくれる。
初めはナルトたちのことをよく知りたいからと言って誘ってくれたのだけど、話題はそれだけじゃなくていろいろな方面にまで及ぶ。多岐にわたった話題に美味しい酒と料理。それはとても楽しい時間なのだ。
ナルトと一楽のラーメンを食べに行くと、ばったり会うことが多い。というかほとんどと言っていい。
不思議に思ったが、
「ラーメンを食べたい周期が同じなのかもしれませんね」
とカカシ先生と言うので納得した。
そうか、周期が同じなのか、気が合うなぁ。
他にも七班で農作物の収穫を手伝う任務があり、その報酬に貰ったという野菜をわざわざ家まで持ってきてくれたこともあった。
あれ? そういえば俺の家を教えたっけ?
ナルトにでも聞いたのかな。
ああ、きっとそうに違いない。カカシ先生はいつも気配りを忘れない人なのだ。
この前なんて。
「そういえばイルカ先生。醤油がもうないって言ってませんでした?」
スーパー寄っていきましょうか、とカカシ先生が促す。
「そうでした、忘れてました! カカシ先生はなんでも覚えてるんですね。すごいなぁ」
俺が一度何気に言ったことも忘れないし、どんなつまらない話でも笑顔で聞いてくれる。笑顔で嫌な顔一つせず、人を気遣ってばかりだ。そんなに気を遣って疲れないかと思うくらいカカシ先生は優しい。
こんな人が存在するんだなぁと感心してしまう。
「あなたが言ったことなら何でも覚えてますよ」
「記憶力がいいんですね!」
「…………ええ、まあ」
さすが上忍はすごいと感心して誉めたら、カカシ先生は微妙に間が空いたけど、俺がおかしなことを言ってしまったんだろうか。上忍にはあたりまえのことで中忍のお気楽加減に呆れたのかもしれない、とちょっと不安になった。
でも、その後カカシ先生は笑っていたから大丈夫だと思う。
本当にいい人だなぁとしみじみ思う毎日だった。
そんなある日のこと。
「アスマ先生」
書類の訂正を求めて上忍控室まで出向いた。
「おう、イルカ。元気か」
上忍師と元担任として話をする機会が多いため、アスマ先生も気さくに答えてくれる。
悪いなと謝りながら訂正してもらった後は、十班の話に花が咲く。
今年は良い上忍師に恵まれてあいつらは幸せ者だなぁと笑みがこぼれる。
そんな時。
はっ。睨まれている?
視線を感じてそろりと振り返ると、カカシ先生とばっちり目が合った。
気まずげにふいっと視線をそらされたが、今どう考えてもカカシ先生がこっちを見つめていた。むしろ睨んでいた。
俺がなにか悪いことをしたんだろうか。だって、今まであんな厳しい表情を見たことがなかった。だからきっと俺がカカシ先生が怒るようなことをしでかしてしまったんだ。
一生懸命考えてみた。
もしかして俺とアスマ先生が話しているのが気に入らなかった?
確かにたかがアカデミー教師のくせにエリート上忍のアスマ先生に馴れ馴れしくしすぎたかもしれない。でもカカシ先生は上忍とか中忍とか階級にはあまり拘らない人だったはずなのに、どうして?
優しいカカシ先生が睨むなんてよっぽどのことなんだろう。
考えに考えて、はっと閃いた。
そうか、わかった。カカシ先生はアスマ先生のことが好きなんだー!!
そう考えれば睨まれたことにも納得がいく。馴れ馴れしく近づき話しかける俺を苦々しく思った、あるいはやきもちをやいたんだと推測される。
俺はすごい秘密を知ってしまったのだった。
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2007.06.02 |