カカシ先生がアスマ先生に恋をしている。
その事実は衝撃だった。
「カカシ先生は付き合っている人とかいるんですか?」
もしかして恋人同士なのかと思い聞いてみると、
「いません! いるわけありません!」
と、なぜか猛烈な勢いで否定されてしまった。
ということは、片想い真っ最中にまちがいない。だってカカシ先生は嘘をつくような人ではないのだから。
けれど、どうしてアスマ先生なんだろう。
男同士だとたとえ公式には認められていても、いろいろと苦労も多い。カカシ先生が付き合いたいと思ったら、どんな女性だってきっと頷くだろうに。なにもわざわざ苦労する道を選ばなくても、と思う。
でも、恋なんて理屈ではないのかもしれない。きっと恋に落ちてしまったらそんなことはどうでもよくなるのだろう。
そう考えるとちょっと羨ましい、そんな一つのことに夢中になっているカカシ先生が。
カカシ先生には日頃から親切にしてもらってるし、自分はもちろんナルトたちもお世話になってるし。恩返しをしたいと常々思っていたから、これは良い機会かもしれない。
カカシ先生の恋を応援するんだ。
なんとかアスマ先生とうまくいくよう協力したい。頑張ろう、俺!
気合いを込めて拳をぎゅっと握りしめた。
しかし。
頑張ると言ってみたものの、恋愛音痴の俺ができることなどはっきりいって無きに等しい。
恋人同士の甘い語らいどころか、デートだってしたこともない。恋の駆け引きなんてとんでもない。惚れたはれたから縁遠い人生なのだ。
そんな俺が何をどう協力できるというのだろう。
悩んでいると当の本人が話しかけてきた。
「イルカ先生、今日飲みに行きませんか」
いつものようにカカシ先生に誘われる。
そこではたと思いついた。
そうだ、アスマ先生も一緒に飲みに行けばいい。少しでも話す機会を作ることが肝心だ。
具体的にどう協力すればいいかよくわからないけれど、案ずるより産むが易し。案外うまくいくかもしれないじゃないか。
自分のアイディアに未来が開けたような気がして、ぱあっと気分が明るくなった。
「あの……アスマ先生も誘っていいですか?」
なにげない風に言いたかったが、どうも少し力が入ってしまった気がする。
いけない、いけない。俺がカカシ先生の恋心に気づいてるなんて知られたら駄目だ。カカシ先生はきっと気まずい思いをしてしまう。内緒で事を運ばなくてはならない。
「え。アスマも一緒にですか?」
「ええ」
戸惑っているカカシ先生に、大きく頷き返した。
「前から十班の子たちのこと、聞いてみたかったんです。でも自分一人でお誘いするのも気が引けてしまって……カカシ先生が一緒だったら誘いやすいし」
ほとんど一瞬といえるこの短い時間の中、必死になって考えた言い訳をドキドキしながら言ってみる。
不自然じゃなかっただろうか。カカシ先生が不審に思わなければいいのだけど。
「でもアスマもそんな暇じゃないし……」
カカシ先生が乗り気じゃない空気を感じ、首を傾げた。
恋してるならもっと一緒にいたいと思うものじゃないのだろうか。
想っていてもあまりにも近くにいるのは躊躇うのか、それとも俺がいると邪魔だと感じているのか、カカシ先生はなかなか頷いてくれない。
そこへ偶然通りかかった人物が声をかけてきた。
「お。お前ら何してるんだ?」
まるで神さまが協力してくれたかの如く、アスマ先生が現れたのだ。
そうだ、カカシ先生はきっと尻込みしてるんだ。俺が力になってあげなくちゃ!
「あのっ、今から飲みに行くんですけど、アスマ先生もいかがですか」
「あ? 俺か?」
「はい!」
祈るような気持ちで心の中で手を合わせる。
「そりゃ俺は飲めりゃあ嬉しいけどよ。いいのか?」
「もちろんです!」
カカシ先生が断ってしまわないうちに、と勢いよく答えた。
●next●
●back●
2007.06.09 |