結局その日の飲み会は気まずい空気が終始流れ、早々にお開きになった。
アスマ先生もさすがに悪いと思ったのか会計をほとんど一人で払って帰っていった。
俺も帰ろうとしたら、店を出たところでカカシ先生に呼び止められる。
「明日からしばらく任務でいないんです。ちょっと単独で遠出しなければいけなくなって」
「そうなんですか。大変ですね」
本当ならば上忍師が幾日も里を空ける任務はあまり振り分けられないようになっている。でもカカシ先生は人気があってよく指名が入ったりするというから仕方ないのだろう。
しばらくこうして会えないかと思うとちょっと寂しい。
はっ、なんだ俺。寂しいなんて子供じゃあるまいし!
ぶるぶると頭を振ってその考えを頭の中から追い出そうとする。
そして閃いた。
カカシ先生は仕事で里にいない。アスマ先生は下忍を監督するために里に常駐しているはず。
それならカカシ先生のいないところで思う存分アスマ先生と話せるじゃないか。
これはチャンスだ。
アスマ先生にカカシ先生のことをアピールするチャンス。
「イルカ先生」
「は、はいっ」
突然名前を呼ばれて焦る。
隠し事があると、別段悪い事じゃないのに咎められたような気がしてしまう。
「約束してください! 俺がいない間、アスマと二人っきりで飲みに行ったりしないって」
「え、でも……」
せっかくのチャンスなのに。
どうしてカカシ先生がそんなことを言い出すのか、と首を傾げた。
覗き込んでくる瞳が心配そうに瞬いている。
もしかして俺が酔っぱらってアスマ先生に迷惑をかけるんじゃないかと心配されてるんだろうか。
以前飲み過ぎてカカシ先生におぶって送ってもらった前科があるから、きっとそれだ!
正体なくなるほど飲むなんて、いい歳した大人としては非常に恥ずかしいことだ。もうやらないと心に決めているが、そんな決意も口先だけと思われてしまっては納得してもらえないだろう。
カカシ先生は俺の手をぎゅっと握りしめ、真剣な眼差しで見つめてくるので、それを振り切ってまで約束を拒否できなかった。
「わかりました。約束します」
そう答えると、案の定カカシ先生はホッと表情を緩める。
「ホントに?」
「はい」
頷くと更に嬉しそうに笑うので、これで安心できるのならよかったと思った。
やはり好きな人に迷惑はかけたくないと思うものなんだろう。
飲みに行かなければいいんだよな……飲みに行かなくても、アスマ先生が上忍控室で待機している時に会いに行けばいいんだから別に平気だし。うん、そうしよう。
俺、頑張るからもう少し待っててくださいねカカシ先生。
想いを込めて笑いかけると、その想いが通じたのかカカシ先生も微笑んだ。


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2007.06.30


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