【勘違いは恋の素5】


どうしたらよいのかわからなくて自分の力不足に肩を落とす。
なにか。何か言わなくちゃ!
「そ、それじゃあ、カカシ先生の好きなタイプは?」
「え?」
なにげに口にした言葉に、カカシ先生の反応は劇的だった。
青白かった顔がさぁーっと上気した色に染まる。
「お、俺の好きなタイプですか……?」
「ええ」
咄嗟に出た言葉だったけれど、これはなかなか良い手のように思える。
ここでアスマ先生のいいところを挙げて、好きだという気持ちをアピールしてみたらどうだろう。
ほら、カカシ先生の目も輝いている。
きっと自分の気持ちをわかってもらおうと気合いが入ってるんだ。
そうです、その意気です! 頑張って。
「えーっと……子供好きで面倒見がよくて」
アスマ先生は十班のあの個性的な子供たちにも信頼されて好かれてるよな。それはやっぱり子供が好きだからに違いない。
面倒見だっていい。よく焼き肉を奢ってもらってるってチョウジが喜んでたっけ。
「お年寄りにも親切で優しくて、老若男女誰からも好かれてて」
そうそう。ご意見番の方々にも評判いいんだよな、アスマ先生って。なんだかんだ言って気に入られてる。
嫌いと言ってる人を聞いたことがない。
ちょっと口は悪いけど、その奥には気遣いと優しさに溢れてるからなんだろうな。
「人に教えるのがうまくて」
うんうん。上忍師としても立派で素晴らしい人だもの。
「自分のことよりも他人のことを真っ先に考える…」
面倒くさいが口癖だけど、やるべきことはきちんとこなすし。部下の面倒はきっちり見ていると評判だ。実はひそかに上司にしたい人ベスト5にいつも入ってるのだって知ってる。
「暖かくて笑顔の可愛い人です!」
そうか、カカシ先生の目から見るとアスマ先生は可愛いのかぁ。
やっぱり恋をすると見方が違う。俺みたいな中忍から見れば頼れる上忍にしか見えないけど。
カカシ先生は緊張のためか照れくさいのか俺の方を見つめるばかり。ここはアスマ先生に熱い視線を送るべきなのに。
でも不器用な人なんだと思えば応援にも力が入る。
「そうですか。素敵な理想の人ですね!」
俺にできうるかぎりの笑顔で答えた。
「え…ええ、まあ……」
なぜかガッカリしたように視線をそらすカカシ先生。
俺はまた何かしくじった!?
ここは思いきって『アスマ先生みたいな人ですね』って言うべきだった?
でも、ここまで具体的に言えばアスマ先生も『もしかしてカカシは俺のことを?』と思うだろう。
期待に胸を膨らませて様子を窺ったが、その期待は裏切られた。
目の前にはテーブルに突っ伏して震えるアスマ先生。
どう見ても笑ってる。
「アスマ先生。人の好みを笑うなんて失礼じゃないですか!」
俺が抗議すると、アスマ先生は一瞬止まり、今度は声を出して笑い始めた。
「わ、悪りぃ。そんなんじゃないんだって……ちょっと俺は笑い上戸でな」
笑いすぎで苦しいのかヒーヒー言っている。
何がツボに入ったのかわらかないけれど、いくら酔っぱらってるとはいえあまりにも失礼だ。
さすがのカカシ先生も憮然としていた。ああ、ショックだったんだろうなぁ。笑われるなんて。
これだけ言ってもわからないなんて。アスマ先生のニブチン!
俺は心の中で罵ることしかできなくて、こんな話題を振ったことをカカシ先生に申し訳ない思いでいっぱいだった。


●next●
●back●


●Menu●