【勘違いは恋の素11】


「それじゃあ、合格ですか?」
カカシ先生は期待に満ちた瞳でこちらを見つめてくる。
まるで頑張ったらご褒美ちょうだい!と強請る子供のようで、つい笑みが漏れた。
「もちろん。合格です」
今まで息を詰めていたのか、カカシ先生は俺の言葉と共にそっと息を吐き出した。
カカシ先生はけっこう神経が細そうだから、時間が経つと悩み始めてやっぱり告白は止めるとか言い出すかもしれない。試験に合格したと思っている勢いで告白してしまった方がいいのではないか。
うん、それがいい。思い立ったが吉日だ。
「それじゃあ、これからアスマ先生も一緒に飲みに行きましょうか」
ちょっとお酒が入って緊張もほぐれたところで告白するのがいいだろう。
「ええっ。今日、今これからですか!?」
俺の提案にカカシ先生は泡を喰っている。
いきなり告白本番となると、心の準備が必要かもしれない。でもこういうのは勢いも大事だ、と思う。
「そうです。それで、アスマ先生に告白して……」
みましょうと勧めようとして、カカシ先生の視線の鋭さに最後まで言い切ることはできなかった。
「アスマに告白?」
「え、ええ」
「本気で言ってるんですか?」
「はい、本気です」
頷いてもカカシ先生の表情は硬いままだ。いつもと違った冷たい声音に戸惑う。
「つまり今までのは練習で踏み台だったと? 今のを参考にして告白しようってことですか?」
「そうですよ」
だって今までそのために頑張ってきたのだから。最初に説明したはずなのにカカシ先生はそう思ってなかった?
どこで食い違ってしまったんだろう。
「酷いこと言うんですね、イルカ先生は」
伏せられた顔は傷ついたように見えて。
俺のどこが酷いのか不安に思った。知らない間に何か傷つけていたのだろうか。
「アスマは駄目ですよ」
言わんとしていることが理解できなくて戸惑う。駄目って何のことだろう。
カカシ先生は黙り込んだ俺をどう思ったのか、深い溜息をつく。
「あいつは紅と付き合ってます。どんな告白しようと、どう足掻いたって無理なんだから」
付き合っている。カカシ先生はたしかにそう言った。
最初は耳に入ってくる内容がよく理解できなくてぼんやりしていた。
誰と誰が付き合ってるって?
あいつ。つまりアスマ先生が。
ア、アスマ先生がー!?
「アスマ先生って紅先生と付き合ってるんですか!?」
「そうです。知らなかったんですか」
カカシ先生が呆れたように溜息をついた。
「はい。全然知りませんでした……」
二人が付き合っている。その事実に呆然とさせられた。
そんな! 今までのすべてを根底から覆された気分だ。
だが、逆にわかったこともある。
だからカカシ先生は告白しないんだ! 友人である二人と気まずくならないためにも。ああ、そうだったのか。
それなのに俺はカカシ先生の気持ちも知らないで、告白しろとか勝手なことを! 当たって砕け散れと言ったも同然。
なんて酷い人間だと思われているのか。想像するだに蒼白になる。呆れられるのも当たり前だ。だから今まで見たこともない厳しい表情だったんだ。
でも、どうして俺の馬鹿な提案を受け入れて、告白の練習なんかに付き合ったりしたんだろう。
思い込みの激しい人間にはなかなか言い出せなくて?
それとも決して実現しない告白だったからこそやってみたかった?
どちらにせよカカシ先生にとっては悲しいこと。酷く傷つけてしまったに違いない。
そう考えると、じわりと涙が滲んできた。
もう顔を合わせているのも居たたまれない。
「すみません。今日はこれで!」
何をどうすることもできず。かろうじて別れを告げるとすぐに走り出した。
「あ、イルカ先生!?」
カカシ先生が後ろの方で驚いて引き止めようとしている。でももう怖くて振り返られない。
ごめんなさい、カカシ先生。酷いことしてごめんなさい!
走りながら心の中で謝り続けた。


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2007.08.11


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