「つまり。気取らない本当の自分を理解してくれるのは相手だってことを伝えるんです」
「それで心動かされるものですか?」
カカシ先生は不安そうに尋ねてくる。
「そりゃそうですよ! 頼られているとわかれば守ってあげたい気持ちも湧いてくるだろうし」
本当はどうかなんてわからないけれど、なんとか自信をつけて告白に望むためにはここは肯定しておくのが一番だ。
「そ、そうですか!」
案の定カカシ先生の表情がぱぁっと明るくなる。
ああ、よかった。こんなに喜んでくれて。
それだけアスマ先生のことが好きなんだ。
この告白がうまくいって二人が付き合うようになったら、きっとカカシ先生はアスマ先生の隣で幸せいっぱいに笑うんだろうな。
想像するとちょっと胸が痛い。
あれ? なんでだ?
喜ばしいことなのに。なんで悲しくなるんだろう。
首を傾げているとカカシ先生が、
「……こんな感じでいいですか?」
と聞いてくる。
はっ、俺がぼんやりしている間に練り直された告白が終わってしまった!
でも一生懸命なカカシ先生に、今さら聞いてませんでしたなんて言えない。
「すごくいいと思います」
「そうですか!」
カカシ先生は嬉しそうに笑った後、躊躇いがちに口を開く。
「俺、他にも考えたんですが……」
「ええ。聞かせてください」
努力を重ねているカカシ先生を励まして先を促す。聞き上手は教師の必須条件だ。
少しうつむいて目元をうっすらと染める表情を見て、ああ本当にアスマ先生のことが好きなんだなとぼんやりと思った。
「あの……キス…し……い…ですか?」
「え?」
よく聞こえなくて聞き返した。
もしかして一緒に鱚を食べに行こうとか、そういう誘い文句だったのかな?
アスマ先生も魚好きだとは知らなかった。てっきり肉好きだと思っていたから。でも好物で釣るっていうのもいいかもしれない。
「それはいいですね。実践してみたらどうですか」
そう頷くと、カカシ先生はなぜか驚愕の表情で固まってしまった。
そんなに驚くようなことを言っただろうか。
「ほ、本当ですか」
「ええ」
さっき厳しく評価したのが堪えているのか、カカシ先生は何度も聞き返してくる。
「大丈夫ですよ。俺も鱚は好きだし……」
アスマ先生だってきっと喜ぶだろう。あれは刺身も天ぷらも美味しいから、と言おうとしてカカシ先生が息が掛かるくらいすぐ側に居ることに気づいた。
どうしたんだろう、と思っているうちにカカシ先生の顔がみるみる近づいてきて唇が重なった。
え。
もしかしてキスされた?
どうして。
あ、アスマ先生とするときの練習?
まさかキスだとは思ってなかった。てっきり魚の鱚のことだと思った自分が馬鹿だった。よく考えれば分かることだったのに。びっくりした。びっくりした。びっくりした!
思わず叫びそうになったが、不安そうに俺の様子を窺うカカシ先生を見た瞬間、思いとどまった。
そうだ、これは試験みたいなものなんだから。評価するのは俺の役目! 泡を喰ってる場合じゃない。
「いきなりキスは駄目でしょう!」
「駄目ですか。ですよねぇ……」
意気消沈するカカシ先生が可哀想になってくる。
俺の勘違いで勧めておいて、後になって否定したのだから酷いことをしてしまった。
練習がうまく決まらなければ本番を前に不安に思ってしまうもの。なんとか頑張る意欲を取り戻してもらいたい。
「やっぱり最初は言葉で伝えないと! 大丈夫ですよ、さっきの告白の台詞は素晴らしかったんだから、キスなしバージョンで充分です!」
と励ましのエールを送った。
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2007.08.04 |