カカシ先生は真剣な瞳でまっすぐこちらを見つめてくる。
普段は隠している端正な顔も露わになり、こちらの緊張度も増すばかりだ。
本番さながらで、まるで自分が告白を受けている気分になる。
駄目だ。ここはちゃんと冷静に的確に告白の台詞を分析して、傾向と対策を練らなくては。
「好きです。俺と付き合ってください!」
あまりにもシンプルでオーソドックスな告白。
それはカカシ先生の素直な気持ちなんだと思う。
こんな風に告白されたら、女性だったらその気がなくても頷いてしまうだろう。
しかし、男同士ということでちょっと躊躇いがちなアスマ先生の心を動かすにはきっと足りない。
「そんなんじゃ、どれだけ好きかなんて伝わりませんよ!」
「だ、駄目ですか……」
せっかくの告白を否定されてしまって、カカシ先生は落ち込んでいる。
でもここで甘い点を付けていい加減に済ませてしまい、本番で失敗したら目も当てられない。
後で泣かないよう今厳しくするのは何かを教えるときの鉄則だ。
「他には?」
「ずっと前から好きでした」
「もうちょっと具体的に」
「黒曜石の瞳も漆黒の髪も何もかもが俺の心を魅了します」
「ちょっと気障すぎませんか」
「寝ても覚めてもあなたのことばかり考えてます。毎日いつでもどこでもあなたを見つめていたい」
「ストーカーっぽいです」
「あなたの笑顔を見るだけで元気が出ます」
「まあまあかな」
「まあまあですか……」
ガックリと肩を落とすカカシ先生に、ちょっと厳しく言い過ぎたかなと反省した。応援しようという気持ちが強いあまり、力が入りすぎていたかもしれない。
しかし、アスマ先生の気持ちを惹きつけるような告白、と思うとなかなか難しい。
「これじゃあ駄目なんですね……」
「駄目ってわけじゃないですけど。もっと心を掴むような言葉があった方がいいですよ」
「はぁ、難しいですね」
眉間に皺が寄り、考え込んでいる。
きっとカカシ先生も告白に慣れていなくて、うまく要領を掴めないでいるんだ。
告白の経験など薄くてぺらっぺらな俺では、適切なアドバイスも出来なくて申し訳ない。こうすれば良い返事をもらえるという必勝法みたいなものがあればいいのに。
そんなことを考えているうちに閃いた。
そうだ。
「今までカカシ先生が告白された中で、これは!ってものはないですか?」
きっと今まで星の数ほど告白されてきたであろうカカシ先生。心動かされるような台詞もきっとあるはずだ。俺なんかよりよっぽど期待できるだろう。
「はぁ、あんまり参考にならない気が……」
困惑気味のカカシ先生はガリガリと頭を掻いている。
「そんなこと言わないで教えてください。何かヒントがあるかもしれないじゃないですか」
渋るカカシ先生を説き伏せ、告白された内容を並べてもらうことにした。
「『愛人にしてください』とか」
「愛人!?」
「『一晩限りでもいいから』とか」
「一晩!?」
「『私、七股までならOKです』とか」
「な、七股!?」
なんだ、それは。
俺の想像をはるかに超えていた。
どんな告白だ。最近の若い娘ときたら!
それだけモテるんだろうけど。でも。
「たしかに参考になりませんね……」
「どうも世間は俺のことを誤解してるみたいで。最初から複数の人と付き合うのが常識みたいに言われてもねぇ……あ!でも俺はいたって普通ですよ。普通に人を好きになって普通にただ一人の人と付き合って幸せになりたいと思ってます」
「そんなのわかってます」
噂ばかり先行して、みんなおかしい。変な先入観で見ているから駄目なんだ。
「ちゃんとわかってくれる人がいるのってすごく嬉しいです。イルカ先生がそう思ってくれるなら別に他からどう思われようといいんですよ」
カカシ先生は嬉しそうに笑み崩れた。
ありのままの自分を見てくれる。それは、カカシ先生にとって大事なことなんだと思った。
だからこそ普通に接してくれるアスマ先生を好きになったのかもしれない。
はっ、それだ!
「それです!」
「え? どれです?」
「そこを強調してみたらどうでしょう」
戸惑うカカシ先生にそう提案してみた。
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2007.07.28 |