【勘違いは恋の素8】


「ところでイルカ先生。アスマと毎日何話してたんですか」
「えっ」
突然の質問に口ごもった。
「えっと、それは……内緒です」
「えっ!?」
カカシ先生が驚いている。
でも仕方がない。まさかカカシ先生について語り合っていました、とはとても言えやしない。
「楽しかったですよ。アスマ先生って話もお上手なんですね。知りませんでした」
今まであまりしゃべることができなかったから意外な発見だった。
そう思って誉めたつもりだったが、カカシ先生を見るとふいっと視線をそらされた。
もしかして俺はまた失敗した?
不機嫌そうな表情に、そう悟った。
相手を誉める。つまり好意があると解釈すれば、恋愛感情があるのではと疑われてしまったのかも。それは恋をする人間としては当然の感情なのだろう。好きな人がモテるのは不愉快に違いない。
もちろん俺はアスマ先生に気があるわけじゃなくて、カカシ先生に幸せになってもらいたいだけなのだけど。
やはりカカシ先生に何も伝えないままで恋を応援するのは無理がある。さらに協力するには、ここはひとつ正直に言うべきだろう。
うん、そうしよう。
そう心に決めて頷いた。
「カカシ先生は今恋してるんでしょう?」
唐突な問いに、カカシ先生は驚きで声も出ない様子だ。
自分でももうちょっと言い方はなかったのかと思うけれど、他に思い浮かばなかったのだから仕方がない。
「実は俺、カカシ先生の好きな人が誰か知ってるんです」
「ええっ、知ってたんですか!?」
カカシ先生はほとんど悲鳴のような声で叫び、信じられないというような目でこっちを見つめている。
今まで黙っていたからそりゃもう驚いたんだろうな。
俺もずっと内緒にしていたから、知っているのだと打ち明けることができてちょっとホッとした。
「ええ、だから……」
だから協力したいのだと言おうとして、カカシ先生の様子がまだおかしいことに気づいた。
「知ってて黙っていたってことは、望み薄だってことですか……」
呆然と呟く姿は、驚いたというよりは何かに気を取られているように見える。
望みがないから俺が黙って見ていただけだと誤解されてしまったようだ。
でもそんなことはない! 俺だってできる限りのことはしてきたし、アスマ先生だってカカシ先生の気持ちを知ればきっとわかってくれるはず。
「カカシ先生。告白する練習をしてみたらどうでしょう」
「練習?」
カカシ先生がきょとんとした顔で首を傾げる。
「はい、練習です」
いきなり告白するといっても戸惑うばかりだろう。失敗しないかどうか俺としても心配だ。
こんな心配は上忍に対して失礼かもしれないが。でもカカシ先生を見ているとそういう気持ちが湧いてくるんだ。今までずっと頼りになる大人の人と思っていたけど。
アスマ先生のことで青くなったり赤くなったりしているカカシ先生は、今までもよりずっと身近に感じる。
だからこそ応援したいと思う。
ともかくアスマ先生に気持ちを伝えなければ何も始まらない。
ああいうものはきっと慣れなんだ。
俺は慣れるほど告白なんてしたことはないが、シミュレーションをしておけば俺にだって失敗せずに告白ぐらいできるはずだ。たぶん。
「本番じゃなくて?」
「え。それはカカシ先生に自信があるんだったら、別にそのまま本番でもいいですけど」
「自信……いえ、自信なんてないですけど」
口元に手をやって考え込むカカシ先生。
カカシ先生の答えが出るまでじっと待つ。
実際に告白するのはカカシ先生なのだから、俺がどうこう言うべきことではない。嫌がることを強制したいわけではないのだし。
「……つまりそれは試験みたいなものですか? 合格したら告白していい、みたいな」
ああそうか、試験だと思えばゴールを目指して頑張れるかもしれない。合格したと信じることができれば自信もつくに違いない。
そう考えると俺の教師魂に火がついた。
子供のやる気を上手に促して目標を達成するのが教師の役目。俺がしっかりしなくちゃ。
「ええ、そうですね」
「なるほど……わかりました。合格点が出たらいいんですね?」
カカシ先生がようやく心を決めて意欲的になってくれて嬉しかった。


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2007.07.21


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