【勘違いは恋の素7】


その後、時間の許す限りアスマ先生のところへ顔を出し、カカシ先生の話をいろいろと聞いた。
教えて欲しいと言うと、快く話してくれる。
今まで知らなかった暗部時代の話や任務のエピソード、好きな食べ物から飼っている忍犬の名前まで。本当にいろいろなことを改めて知った。
さすが付き合いの長いアスマ先生。熟知してるんだな、と感心した。
カカシ先生の良いところやちょっとぼんやりしてるところも全部ひっくるめて友人付き合いをしているのだと感じた。けっこう辛口評価なのは心を許している証拠だ。照れ隠しもあるかもしれない。
今回カカシ先生の良さをたくさん思い出したことをきっかけに、恋心が芽生えてくれたらいいのだけど。
今日もたくさん話を聞こうと意気込んで控室を訪ねると、そこにはカカシ先生がいた。
任務から帰ってきたんだ!
「カカシ先生! お疲れさまです」
そう声をかけたのだが、カカシ先生の表情は冴えなかった。
大変な任務だったのかもしれない。そう思うと心が痛んだ。
しかし、暗い表情のカカシ先生の口からはまったく予想外の言葉が出てきた。
「イルカ先生……なんでも聞くところによると、毎日のようにここに通ってるっていうじゃありませんか」
きっと他の上忍の方々から聞いたのだろう。
中忍が通ってきて迷惑していた抗議をぶつけられたのかもしれない。そこまで気が回らなくて申し訳なく思った。
「はい、すみません」
「すみませんってことは事実なんですね?」
「ええ」
神妙に返事をした。きっとカカシ先生は不愉快に思っている。
初めてここに来たときは緊張して入ることも出来なかったのに、自分はちょっと弛んでる。
「なんで……イルカ先生、約束したじゃないですか!」
「約束?」
何の約束だろう。
控室に入らないなんて約束しただろうか。
「アスマとは二人っきりで飲みに行ったりしないって。忘れてました?」
「ああ!」
その約束はもちろん覚えてる。ちゃんと守ってるし。
「もちろん約束は守っていましたよ?」
「でも!」
カカシ先生が言葉を継ごうとしたその瞬間。ちょうどアスマ先生が控室にやってきた。
「あ。アスマ先生、昨日はありがとうございました」
「おう。こっちこそ無理に誘って悪かったな」
「とんでもない! あの……奢ってもらってしまって、よかったんでしょうか。申し訳なくて……」
「ああ、いいって。四人分も五人分もたいして変わりゃしねぇよ」
アスマ先生は鷹揚に手を振るが、思いきり食べたから絶対高かったに違いない。
「昨日って。ほら、やっぱり飲みに行ったんじゃないですか!」
カカシ先生が間に割って入ってくる。
「違いますよ。十班のみんなと一緒に焼き肉を食べに行ったんですよ。二人じゃないし、お酒は飲みませんでしたよ?」
酔っぱらって迷惑なんてかけなかった。ちょっと自慢げに言うと、カカシ先生の身体がよろけた。
任務の疲れが出たんだろうか。心配だ。
「大丈夫ですか?」
ガックリと肩を落とし頭を押さえる仕草に、頭痛がするのかと心配になり手を伸ばそうとした。
「……俺の言葉が足りなかったみたいですね……」
「は?」
「いえ、なんでもないです……」
もしかして焼き肉を食べに行ったことにショックを受けてる?
でもカカシ先生の好物はサンマだし。
「あの、カカシ先生は肉より魚が好きなものだとばっかり……」
言いかけてハッとした。
違う、そうじゃない。
ああ、きっとカカシ先生もアスマ先生と一緒に焼き肉を食べたかったんだよ!
兵糧丸だけを食べて過ごす任務だってある。帰ったら一緒に行こうって夢見てたに違いない。
「すみません。俺、気が利かなくて……肉食べに行きましょう! 任務の後はやっぱり焼き肉ですよね!」
昨日の今日でまた焼き肉はちょっとキツイけど、カカシ先生が望むようにしてあげたい。そう思って張り切って誘ったが。
「いえ……別に肉に拘ってるわけじゃないので……」
あまり乗り気じゃないみたいだ。
そうだよな。拘ってるのは肉じゃなくてあくまでアスマ先生なんだから。
「じゃあ、いつも通り三人で飲みに行きましょうか?」
久々に再会できて少しでも一緒にいる時間が長い方がいいだろうと思ったからだ。
しかし。
「あ〜、アスマはたしか先約があるんじゃない?」
「……そうだな。そういや紅と約束してたんだった。今日は悪いが、またな」
そう言って、アスマ先生はそそくさと帰ってしまった。
紅先生となら四人で行ってもいいのにと思ったが、声をかける暇はなかった。


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2007.07.14


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