半ば引きずられるように手を引っ張られ、足早に歩きながら、混乱する頭で考えていた。
カカシ先生の好きな人がアスマ先生じゃなかったなんて。
誤解だって言うけれど、どう考えてもそうとしか思えない言動の数々。はっきり言って、カカシ先生がアスマ先生のどこか好きなのか俺は言える自信がある。告白の練習までしたし。でも違うと断言されてしまった。
もう何が何だかよくわからない。
『好きな人があなた』って、『あなた』は誰のこと? 俺?
え、俺ー!?
先をどんどん進んでいく案内人に慌てて声をかける。
「カ、カ、カ、カカシ先生っ」
「はい」
名前を呼んだ途端に急停止され、背中にぼすんとぶつかった。恥ずかしい、仮にも忍びが。
「あの、カカシ先生の好きな人って……」
おそるおそる聞いてみると、カカシ先生に困ったなぁという顔で苦笑された。
「アスマでもガイでもなくって、俺の好きな人はイルカ先生ですよ」
きっぱりと言われた。
間違いなく俺なんだ。
一応身構えていたものの、言われた内容は実際に耳にするとやはり衝撃的だった。
じゃあ、あの居酒屋で聞いた好みのタイプも、練習していた告白の相手も、全部俺のことだったのか。しかも俺は告白指導までしてしまった!
「あの……こんな風に聞くのはちょっと卑怯かもしれないけど。今告白の本番をしたら、俺は良い返事を貰えそうでしょうか」
それはつまり、俺がOKするかどうかってこと!?
考えてもいなくて焦った。
だってカカシ先生はビンゴブックにも載るようなすごい上忍で、里のエリートで、雲の上の人だと思っていたから。
いや、そうじゃない。
やきもち焼いたり拗ねたり泣きそうになったり。全然普通の人だ。
むしろ力になってあげたいと思った。
カカシ先生がアスマ先生と恋人同士になることが俺の望みだった。本当にそれだけ。
……本当にそれだけだった?
二人が付き合うことを強く願う反面、そうなってしまったら寂しくて悲しいと思ったのは事実だ。
強く願ったのは、それがカカシ先生にとって一番の幸せだと思っていたからだ。
幸せに笑ってほしいと思ったから。その笑顔が曇らなければいいと、そう思ったのはカカシ先生を好きだから?
嫌われたと思うと胸が痛んだり、一緒にいたいと願ったりするのは、もしかして恋なのかもしれない。
不安そうに丸まる背中も、縋るように見つめてくる瞳も、きっと全部好きなのだと思う。ここできちんと返事をしないとそれが手に入らないというのなら、頷くべきなんじゃないだろうか。
「えっと、たぶん貰えると思います……」
「ホントですか!」
「は、はい」
カカシ先生のあまりの勢いに気圧されそうになったけれど、やっぱり頷いておいてよかったと思った。だって、カカシ先生の表情がホッとしたように緩み、その後ものすごく嬉しそうに笑ったから。
「じゃあ、イルカ先生のおすすめのキスなしバージョンでね」
そう言われてハッとした。
あの練習の時のキスはアスマ先生宛じゃなくて、正真正銘俺宛だったんだ。
ぎゃー、なんてことだ!
自分の勘違いが今さらながら恥ずかしくなってきた。地面に穴を掘って潜ってしまいたい……。
でも、そのおかげで今まさにカカシ先生と付き合う寸前かと思えば、それもそう悪くない気がした。
だって勘違いしなければ、カカシ先生は今でも声をかけるのも躊躇われるほどのエリート忍者で、下の者にも心配りを忘れない完璧な人だと思っているだけだったろうから。
勘違いのおかげで恋をした。
恥ずかしい思いをした分だけ幸せになれるといいな。
そう思ってカカシ先生を見ると、これからする告白に緊張しているのか咳払いをする姿が目に入ったのだった。
END
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2007.09.01 |