しばらく呆然としていると、カカシ先生が口を開いた。
「それじゃあ、もしかしてあの告白の練習ってアスマにするための……?」
もちろんそのつもりだった。
無言で頷くと、カカシ先生は白い顔が更に青白くなった。ように見えた。
「……どこをどう受け止めたらそんな勘違いできるんですか」
だって、だって。
「だって、俺とアスマ先生が話してる時、睨んだじゃありませんか!」
気づいたきっかけを言うと、カカシ先生はしくじったというような、苦虫を噛み潰したような微妙な顔をした。
「たしかに見てましたけど、あれはイルカ先生を睨んだんじゃないですよ?」
「嘘です。そんな見え透いた嘘をつかなくたっていいんです」
そうだ。カカシ先生は恥ずかしがってこの場を誤魔化す嘘をついてるに違いない!
でも、そんなのは逆効果。今はっきりと告白した方がいい。
一度冗談だと言ってしまったら、また告白しようとした時に本気に受け取ってもらえなくて苦しむのはカカシ先生なんだから。
「だって理想のタイプは子供好きで面倒見がよくて老若男女誰からも好かれる人だって言ってたじゃありませんか。どこをどう考えてもアスマ先生のことでしょう?」
「そこからしてすでに食い違ってるんですか……参ったな」
カカシ先生は頭をガリガリと掻きむしり、何か意を決したように俺をまっすぐ見つめてきた。
「あのですね」
「はい」
「俺の好きな人は、黒髪で黒い瞳の、誰からも好かれてる教師の鏡です」
「だからアスマ先生じゃ……」
「違います」
否定されて懸命に考えた。
黒髪で尊敬できる教師、その上カカシ先生と仲がいい人といえば。
「はっ。まさかガイ先生!?」
うかつだった。そうだよ、ガイ先生なら理想のタイプにぴったりじゃないか!
相手を勘違いするなんて恥ずかしい。
あれ? でもそれじゃあ、どうして俺を睨んだりしたんだろう。
首を傾げると、カカシ先生が疲れたように溜息をついた。
「……いえ、上忍師じゃなくてアカデミーの先生です」
「えっ、俺の同僚ですか!?」
そんな人がいるなんて知らなかった。
一体誰なんだろう。
「つまりあなたですよっ!」
カカシ先生がやけくそのように叫んだ。
え。なんか耳に届いた言葉の意味がよくわからなかったんだけど。
聞き直してもう一回言ってもらった方がいいだろうか。頭の中はそんなことがぐるぐる回っていた。
しーんと静まりかえった空気の中、ただ一人アスマ先生だけがひーひっひっと奇声を発している。
「は、腹がよじれるっ」
「うるさいぞ髭!」
笑い続けるアスマ先生をカカシ先生が怒鳴りつけた。ソファから落ちかけている身体を今まさに蹴ろうとしていて、慌てて止める。
腕に縋りつきじっと見つめ、止めてもらえるよう無言で懇願すると、カカシ先生もさすがに思い直したようだった。
「とにかくどこか他へ行きましょ」
ふと気がつくと控室にはちらほらと人が居て、こんなところで大声を出していたのかと思うと恥ずかしかった。
促されるまま部屋を後にする。
扉を閉める直前に振り返ると、アスマ先生はまだ笑っていて。
あんなに笑い続けて腹筋は大丈夫なのか。さすが上忍、鍛え方が違うと感心してしまった。
●next●
●back● |