今日こそはイルカ先生に告白する!
普段からは考えられないくらい決意に満ち満ちた俺。
下忍担当の上忍師になったことをきっかけに知り合ったイルカ先生に恋をした。一目惚れだった。
初めて見たのは笑顔だったけれど、怒る顔も困った顔も泣いた顔だって好きだ。寝ても覚めても考えるのはあの人のことばかり。
できたら俺のことを好きになってもらいたい。そして俺に笑いかけてくれたらどんなに幸せだろう。想像するだけで顔がほころぶ。
未来の幸せのため告白するのだ。よし!
目の前を歩く姿を発見。
というか、アカデミーから帰る頃を見計らって探していたのだから当然なのだが。
「イル…」
息を整え声を掛けようとしたその瞬間。
「イルカせんせぇー!」
む! ナルト。ジャマすんな!
駆け寄ってくる子供を憎々しげに見つめる。
「ナルト!」
イルカ先生が嬉しそうなのがまたしゃくに障る。
ああっ! ナルトのやつ、イルカ先生に抱きつくんじゃなーい!!
「俺、イルカ先生のこと大好きだってばよ!」
「ははは、俺もだぞ」
イ、イルカ先生……。
まさに告白する直前に機会をかっさらわれた事実と、イルカ先生の答えに衝撃を受けた。
いやいや、ナルトはただの子供じゃないか。ラーメンが好きだと言うのと変わりがない。
そうじゃない。俺が目指すのはそうじゃないんだ。
「ナルトー、さっきサクラが探してたぞー」
いかにも偶然という顔を装って声を掛ける。
内容は真っ赤な嘘だが仕方がない。ナルトがここに居ては告白なんてできやしない。
「ええっ、サクラちゃんが!? なんだろう……すぐ行かなくちゃ。じゃあ、またな、イルカ先生!」
「ああ、急ぎすぎて転ぶなよ」
「大丈夫だってばよ!」
そう言いつつも勢いが付きすぎて転びそうになりながらナルトは去っていった。
よし、邪魔者も居なくなった。告白する!
「イルカ先生、実はお話が……」
「はい。なんでしょう」
無垢な黒い瞳にじっと見つめられ、緊張がいや増す。
どう告白すべきか夜も寝ないで考えていたはずなのに、頭が真っ白になって何も思い浮かばない。頬がカーッと熱くなって心臓がバクバクと音を立てる。
とにかく伝えなくては。
「俺はイルカ先生が好きです!」
とにかくシンプルに。
「はい、俺もカカシ先生のこと好きですよ」
やった!……いや、そうじゃなくて。
「あの、ホントに好きなんです」
指を組んで祈るように告白の言葉を言い募る。
「俺も本当に好きですよ」
満面の笑みを浮かべるイルカ先生。
ああっ。さっきのナルトのせいで、そういう意味にとられてないじゃないか。
ナールートー。ちくしょう、覚えてやがれ!
とりあえず引き攣った笑顔をキープしつつ、イルカ先生の笑顔にしばし見愡れた。
あー、今日はもういいか。
とりあえず笑顔を拝めたことだし、印象だってそう悪くないはずだ。告白は後日に仕切り直しすればいい。時には引くことも大事だ。
「あの、イルカ先生。今晩飲みに行きませんか?」
「はい。よろこんで」
次こそは必ずリベンジ!
次の日。今日こそ告白を、と張り切る俺。
そしてイルカ先生、発見!
「あ、カカシ先生。今お帰りですか?」
「はい! イルカ先生、お腹空いてませんか。これから一楽でもどうですか?」
「ええ、いいですね」
やった! イルカ先生とデートだ。誰がなんと言おうとデート。ふふふふふー。
もうそれだけで今は幸せだ。
「カカシ先生、これチョコなんですけど……食べてくださいね」
にこりと見惚れるような笑顔で手渡される。
「え、ありがとうございます」
バレンタインも終わった今の時期、ちょっと時季外れなもの。
なんだろう、貰い物かな。珍しい。
ちょっとしたラッピングがしてあるが、可愛いというより実用的な質素な感じだった。
甘い物は苦手だ。でもイルカ先生に貰えるものなら何でも嬉しい。大事に取っておこうっと。
などと浮かれていたら、前方からナルトがやってきた。
「イルカ先生! 俺、これから一楽に行くんだけど一緒に行こうぜ」
……ナルト、どうしてお前は邪魔ばっかり。
「すみません、カカシ先生。ナルトも一緒にいいですか?」
でも、イルカ先生の申し訳なさそうな顔を見たらもう何も言えないじゃないか。
「わかりました。ナルトお前、自分の分は自分で払えよ」
「ちぇっ、わかったってば」
「さ、行こうか」
三人並んで一楽に行くのも、まあそれはそれでいいか、親子のようで。
と自分で自分を慰めるのだった。
●next●
2011.03.05 |