あれから何日もたつが、いつも何かしら邪魔が入って結局は告白できずじまいだ。
ううっ、呪われてる?
今日こそはと、思い切ってアカデミーまで足を運んだ。
「イル…」
「イルカ先生」
またか!!
声を掛けようとしたら、知らない奴に先を越された。
本当に呪われているんだろうか。
今日はもう諦めようかと思ったところに、ひっかかる言葉が耳に入った。
「あの……お話があるんですが」
お話。それはなんだか俺と同じ匂いがする。
「はい、なんでしょう」
「実は……俺はイルカ先生のことが好きなんです!」
やっぱり! イルカ先生に近づく前に殺しておけばよかった!
「あの……お気持ちはありがたいのですが……」
イルカ先生の申し訳なさそうな出だしに、結果は目に見えていた。
とーぜんだ。
「なぜですか!? 理由が知りたいです」
理由だと? そんなの、てめぇがブサイクで弱いからに決まってんだろーが。
この写輪眼のカカシに勝てると思ってんのか!
俺ですらまだ告白してないっていうのに、お前なんて速攻断られるのは決定事項だ。優しいイルカ先生にごめんなさいってな!
「……実はおつきあいしてる方がいるんです」
ほら、みろ。おつきあいしてる人がちゃーんと……
おつきあい!?
だ、誰ですかそれは!! そんなの初耳ですよ、イルカ先生!
恋人がいるなんて聞いたことがなかった。そんな素振りも見たことがない。俺が食事に誘ったら、いつだっていいですよって答えてくれて。
イルカ先生が誰かのことを好き、もうそいつと付き合ってるだなんて考えたこともなかった。
「その人のことがすごく好きなんです」
頬を染めて答える顔は輝いて見えた。
「……そうですか。分かりました。お幸せに。ウウッ」
告白して振られた男は涙ながらに走り去っていったが、そんな奴のことはどうでもいい。それよりも。
誰なんですか! すごく好きな人って!!
火影のじじぃ!?
もしかして、アスマ!?
ま、ま、ま、まさかガイなんてことは!
いやいや、アンコや紅ってこともありうるぞ。
はっ、やはりナルト?
そうなんですか!
クッ、こうなったらあいつを殺して俺も死ぬしかない!
今から殺しに行ってもいいだろうか、と思った時にイルカ先生が声を掛けてきた。
「あ、カカシ先生」
「イルカ先生……」
狼狽えてどう反応していいか分からず、俺は突っ立ったまま。
「もしかして今の、見てらしたんですか?」
耳まで赤くなるイルカ先生。かっ、可愛い!
……じゃなくて!
「イルカ先生。おつきあいしてる人って誰ですか」
「え?」
「教えてください」
「あ、あの……」
イルカ先生はどうしてそんなことを聞かれるんだろう、という表情だ。
それは俺がそんなことに興味があると思っていないということだろうか。眼中にないってことだ。もうお先真っ暗だった。
イルカ先生はしばらく躊躇ってから、怪訝そうに口を開いた。
「カカシ先生ですよ?」
「え?」
何を言われたのか理解出来なくて硬直する。
「だから! おつきあいしてるのはカカシ先生でしょ?」
「は?」
「俺達、つきあってるんですよね?」
「ええっ!?」
「え、違うんですか!?」
すこし涙目のイルカ先生。ああ、その涙を拭ってあげたい!
……いや、だからそういう場合じゃなくて!
「あの、いつから?」
「え。だってこの前、カカシ先生が俺のこと好きって言ってくださって……俺も好きだって答えましたよね。だから俺はもうてっきり恋人同士になったんだと思ってました。俺の勘違いだったんですね……」
もう涙が目から零れ落ちそうだ……イルカ先生、泣かないでください。
って、なにぃー!?
「あ、あれですか!? っていうか、俺が好きだって言ったの、伝わってたんですか!?」
コクリと頷くと、涙が零れ落ちた。
な、な、なんてこった! 俺としたことが!
「すみませんっ! 勘違いなんかじゃないです! もちろん俺はあなたの永遠の恋人ですとも!」
よくよく聞けばイルカ先生はもう俺とつきあってるつもりだったらしい。
「だってチョコあげたじゃないですか。あれって好きですって意味でしょう?」
イルカ先生はあたりまえのように言った。
「……そーいえばそーでしたね」
たしかに貰った。
でも普通バレンタインでもない限りチョコを貰っても分かりませんよ?
ちょっと俺の理解の範疇を超えていた。
「違うんですか?」
小首を傾げて尋ねられる。
そんなところまで可愛いとはっ。反則ですよ、イルカ先生。
もう何でも許す! オールオッケーです。
「いいえ!違いません!! もうチョコって言えば好きって事です。もうそんなの世界の常識ですよね!」
そういってイルカ先生を抱き締めた。
目を潤ませながら俺を見上げてくるイルカ先生が、今俺の腕の中に!
鼻血吹きそう……。
「よかった……」
そういって微笑むイルカ先生の頬には涙の後が残っていた。
それを見てどうにも我慢が出来なくなったって、それは俺が悪いんじゃないよね?
「キスしてもいいですか?」
途端に真っ赤になって俯いてしまった。
「イルカ先生?」
「……そんなこといちいち聞かなくてもいいんですよ。だってアナタは俺の恋人でしょう?」
「はいっ」
そして唇を近づけていく。
ああーまるで夢みたいだ。コレ、夢じゃないよな。
……もう夢でもいい、覚めないでくれれば。
「イルカせんせぇー!!」
ドンッ。
今まさにイルカ先生の唇にたどり着く寸前、突き飛ばされてしまった!!
「ナ、ナ、ナルト!」
ナールートー。お前はいつもいつもいつもいつも!
「ナルト。そんなに俺に殺されたいか……」
ここはひとつ全力でいくしかあるまい。
俺の持てるすべてを使う。忍びとしてのすべてを注ぎ込む。
「え? え? カカシ先生、どうしたってばよ」
「カカシ先生、写輪眼は止めてください!……誰か!」
「ギャーッ」
その日、ナルトの声は里中に響き渡ったとか。
END
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