イルカ先生は照れくさそうに鼻を掻いた後、みかんを一つ手に取る。
「まず軽く揉むんです」
「はい、先生」
「こうすると皮と房が離れて剥きやすくなるし、甘くなるから一石二鳥です」
「なるほど!」
「それから俺は実を皮ごと三つに割るんですが、初めは四等分にしましょう。その方が簡単だから。それからヘタの近くから剥がすようにしたら出来上がり」
瞬く間にきれいに剥けたみかん。驚くことに皮はコロンと転がりそうになった。
そこまで立体的に剥けるなんて!
さっそくやってみた。
まずは実を割るところで実の一部が潰れて汁が飛び出す。
「あ。力を入れすぎると駄目ですよ」
爪から汁だらけにしながら次の作業に進む。
しかし、言われたとおりにやったはずなのに、皮はへちょりと萎れているだけだった。前よりは少しはマシになった気もするが、しょせん気のせいと言われればそれまでだ。
それでも何度挑戦してみた。
が、どうしても上手くいかなかった。次第に皮と中身に分別された二つの山が出来てくる。
イルカ先生もさぞかし呆れていることだろう。
「やっぱり駄目だ……」
「もういいじゃないですか、剥いた後の皮がどうだって。みかんが食べられれば皮なんてどうでもいいですよ」
イルカ先生は優しく慰めてくれるが。
「駄目ですよ! こんなのじゃ……」
こたつにこんな皮はふさわしくない。イルカ先生の隣に座ってみかんを食べる資格もない。恋人として恥ずかしい。
打ちひしがれていると、イルカ先生がこう言った。
「じゃあ、カカシさんがみかんを食べたい時は俺が剥いてあげますよ」
「えっ、本当ですか!」
「ええ。任せてください」
イルカ先生は笑顔で請け負った。
でもそれってすごいことじゃないか。
食べたい時はいつでも剥いてもらえる距離と関係だということだ。
「なんか俺、今初めてみかんの皮を剥くのが下手でよかったと思いました」
「そうですか?」
言った本人はその意味に気づいてないのか、それが当たり前と思ってくれているのか、きょとんとしている。
でもそれすらも嬉しくて、にやけてしまう。
練習で出来たみかんの山をご機嫌で胃に収めていく。いくらでも食べられると思った。
「あ〜俺みかん大好きになりそう」
「じゃあもう1個剥きますか」
そう言って、イルカ先生は笑ってみかんに手を伸ばしたのだった。


END
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2008.01.26


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