【みかんの皮】

四拾万打リクテーマ『ほんわか、たまにうふふと笑える話』 『ほのぼのギャグ』


冬と言えばこたつ。断然こたつ。
エアコン? そんなの全然駄目。暖かみがないじゃないか。温もりが伝わってこない。
足元が暖かければ部屋が多少寒くても大丈夫。
しかも恋人と一緒に入れば、こたつの中で足が触れあったり手を握ったりできるという優れもの。
そんなすばらしい暖房器具を俺は今まで20年以上生きてきて知らなかった。
初めて出会ったのはイルカ先生の家だった。
四角い物体を見た時は何だこれはと思ったが、今では無くてはならないものだ。夕飯を食べる時もTVを観る時も全部こたつ。こたつ板の上に置いた鍋をそのままつつくなんてまさに冬ならでは。
しかし、完璧とも言えるこたつにも問題はあった。
こたつと言えばみかんなのだ。
イルカ先生がそう言うのだから間違いない。
お盆の上に積まれたみかんはたしかにこたつの上にしっくりくる光景だと思う。知らなかった俺でさえそう思う。
しかし。
「カカシ先生、みかん食べないんですか?」
「あ」
しまった。
「柑橘系の果物は嫌いでした?」
「違います! 嫌いじゃないです、イルカ先生が出してくれたものを食べないなんてことありませんよ」
懸命に否定したが、イルカ先生はまだ疑いの目を向けている。
これは目の前で食べて見せなくては疑いは晴れないだろう。
だが、みかん。そう、問題はみかんなのだ。
食べるだけなら問題はない。その前段階が立ちはだかる。
敵はみかん。いや、正確に言えばみかんの皮。
今日こそは! 今日こそは勝つ。
手を伸ばしてみかんを手に取り、気合いを入れて挑んだ。
が、今日はいつにも増して酷かった。
この剥きにくさは、間違いなくこれまでの数々のみかんの中でもダントツだ。
剥く度に皮は千切れ、無惨にも小間切れた皮が山となった。いつもならもう少し繋がっていて、みかんの皮の体裁を保っているのに。
「……もしかして、皮を剥くの苦手ですか?」
「いや、まあ、その……」
ついにばれてしまった。
みかんの皮も剥けない不器用な男だと思われた。
悔しい。クナイだって刀だって自分の手足のように扱うこの俺が。千の技をこなす木の葉一の業師と言われたこの俺が。器用貧乏と言われるこの俺が。
ん? 今のはちょっと違うか?
いや、そんなことはどうでもいい。
とにかく皮を剥くのが下手くそだとイルカ先生に知られてしまった。
嫌われる! もう駄目だ。
皮が剥けたつるんとしたみかんは俺の手の中からぽろりと落ちる。
イルカ先生がくすりと笑った。
わ、笑われた! やっぱりみかんの皮も剥けない男は笑いものなんだ。
「剥き方教えましょうか?」
「え」
「練習すればきっときれいに剥けるようになりますよ」
イルカ先生はたしかにきれいに剥く。
3つに剥かれた皮は丸みを帯びたまま、ヘタを上に向けていればまだ中身があるかのような美しいフォルムを保っている。
「ぜひ! その極意を伝授してください」
伝授してもらえるのも嬉しいが、馬鹿にもせず教えてやろうというイルカ先生の気持ちが嬉しいじゃないか。これが愛じゃなくてなんだと言うんだ。感動で涙が滲みそうだ。
「極意なんて大げさですよ。コツぐらいしか教えてあげられないけど……」
「いえ、イルカ先生のコツってやつをぜひ教えてください!」


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