ナルトが頑張っているのは実はわかっている。この歳の子供にしては修行も嫌がらないところは評価されてしかるべき点だ。ただ、きちんと基礎を覚えようとしないのは困ったものなのだが。とにかく大技をやりたがって困る。基礎あってこその大技だ。
 まあ、子供なんてそんなものかもしれない。
 自分の子供の頃は、教えられることをただ黙々とこなすだけで、あまりどうしたいとか考えたことがなかった。自分がそうじゃなかったから慣れずに戸惑ってしまうだけで、子供はいつも派手好きだ。いや、大人だってそうだろう。
 人間はどうしても派手なものに目がいく。だからイリュージョンのような大きな仕掛けは、そのネタだけを専門に考える連中がいる。マジシャンは高い金銭を出してまでそれを買いたがるのだ。俺からすれば、自分で考えてもいない手品をするのは騙しているみたいで気がすすまないが。
 そんなことをぼんやりと考えていたら、イルカさんが戻ってきた。
「あの……三代目がみんなに大事なお話があるそうなので、今から全員部屋へ集まってください」
 なんだろう。少し嫌な予感がした。
 声をかけたイルカさん自身も戸惑っているようで、頼りなげな表情をしている。
「わかりました。今すぐ行きますよ」
 行ってみればわかることだ。気がすすまない自分をなんとか誤魔化して、笑顔で対応する。
「ナルトも早くおいで」
 イルカさんが手招きをすると、ナルトは跳ねるゴムマリのよういにすっ飛んでいってタックルをかける。
 俺と違って最初から避ける気がないイルカさんは、ぶつかられた衝撃に少し眉を顰めながら笑った。
「じいちゃんの話って何かなぁ、イルカ先生」
「なんだろうねぇ」
 まるで親子のように仲の良い二人の姿を眺めながら、俺も後からついていく。
 部屋に辿り着いてノックしてから入ると、でかいベッドの上にじじいが身体を起こして待っていた。三人でその周りを取り囲むと、じじいはこほんと咳払いをしてからおもむろに口を開いた。
「わしもそろそろ歳じゃから、マジックマスター火影の名は別の人間に譲ろうと思う」
「本気ですか、三代目!」
「うむ。医者にも安静と言われていることだしの」
「そうですか……」
 イルカさんが残念そうに俯いた。引退してほしくはないが、身体のためと言われると強くも言えず、肩を落としている。
 俺にとってはじじいが引退したってかまわない。まったく支障はない。だいたい火影なんてたいしたものでもないのだ。ただの称号でしかない。
 しかし、大多数の人間にとってはそうではないらしい。その称号だけでも魅力的だという。
「で。五代目はどうするんですか?」
 俺は冷静に尋ねた。
「そのことなんじゃが……実はもうここに呼んである」
 その言葉とほとんど同時に部屋の扉がノックされる。
 じじいの勿体ぶった「入りなさい」という返事と共に入室してきた人影は三つあった。近づいてくる人物の顔を確認して、やはりそうきたかと思った。
 まず目につくのは巨乳というよりは爆乳といった感じの胸元。ふんぞり返って腕を組んでいるため、なおさら強調されているのは言わずもがな。勝ち気な強い瞳に、額のビンディ。薄茶色の長い髪。
 すべてが冗談みたいに昔と変わってなかった。
 後ろについてくるのは、一人はショートというには少し長めの黒髪の女性で、もう一人は淡いピンク色をした髪の少女だった。
「火影五代目はこの者に継いでもらおうと思う」
 じじいが最初にベッドへと辿り着いた人物の腕をぽんと軽く叩いた。
「ええーっ!カカシ先生じゃねぇの? 誰そのおばさん。納得いかねーってばよ」
「こら、ナルト。女性に対して失礼だぞ。でも三代目、今のお言葉は本当なんですか? 俺もてっきり五代目はカカシさんかと……」
 二人が抗議してくれて、それだけで嬉しかった。特にイルカさんの言葉はじーんときたね。ナルトもさすが可愛い弟子だけあって良いことを言う、としみじみ思う。
「まあまあ。これは初代の孫の綱手姫じゃ。火影を継ぐのにこれ以上ふさわしい者はおるまいて」
 まったく年寄りは姑息な妨害をしやがって。
 じじいは最初俺に火影を継げ継げと五月蠅かったくせに、俺が火影になったらイルカさんを盗られると思って邪魔する気で充ち満ちているのだ。だからわざわざ綱手姫を呼び戻してまで、俺を火影から遠ざけようとしている。
 俺だってはっきり言って火影五代目は誰がなったっていいと思っている。ただ火影にならなければイルカさんと一緒にいられないというのは非常に困るのだ。
 しかし、それがじじいの決定である限り、もう覆すことはできない。


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2005.05.04初出
2010.02.06再録


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