【南の島の波の音1】
※「君よ知るや南の島」の続編です。


「イルカせんせぇー、また明日ー!」
「さようなら」
「ついでにカカシ先生もー」
「なんだお前ら、ついでってのは」
俺が怒って追いかける振りをすると、子供たちはきゃー!と黄色い歓声を上げて逃げ惑った。
「転ぶなよー」
声をかけると
「はーい」
と元気よく答えて、転げるようにして走り去っていった。


島を買い取って俺のものになってから、いやその前からではあるけれど、俺は暇だった。
イルカが薬を作るのを手伝うことも考えたけれど、まだ言葉が上手く通じない状態で薬を扱うのは危険だった。何が劇薬かもわからず、どれくらいの量が人体に影響あるのかわかっていないので、うかつに触れないのだ。
そのため、島の言葉を覚えようと必死だったが、イルカも俺のしゃべる言葉を覚えたがった。
ならばいっそお互いが教え合うついでに島の子供たちにも教えようということになり、学校を作ることを思いついたのだった。島の運営については、だいたいのことは俺に任されていたから。メインは英語で、フランス語と日本語を日常会話ぐらい、後は簡単な算数が授業内容だ。この島から一番近い観光地では重宝されるため、子供に教えることを喜ばない人間はいなかった。教えるための小屋も村人全員の協力で建ててくれたくらいだった。
俺が島の所有者になって、村長の大蛇丸にそのことについてどう思うか聞いてみると
「島が存続するなら形なんてどうでもいいわ。村長としてやることがなくなったのなら、自分のしたいことに専念するわよ」
と、あっけらかんと答えた。
「自分のしたいことって?」
「永遠の若さを保つこと」
「はぁ、なるほど」
やっぱりよくわからない人だ。だが、悪い人には見えないところが南国人特有の利点かもしれない。
「イルカに、また薬の研究も進めて欲しいって伝えておいて」
とうっすら笑って去っていった。
イルカの待つ家に帰り、疑問に思ったことを聞いてみた。
「村長の薬の研究って何?」
「肌、つるつるにする薬。シミにならない薬。いろいろ」
なるほど、美容液のたぐいらしい。永遠の若さとやらに必要なのだろう。
それに専念するのが本人の希望なら、俺がとやかく言うことではない。
そういうわけで、島のことは所有者である俺がほとんどの面倒を見るということに決定したのだった。


子供たちを見送った後、いつも約束のように口にする言葉がある。
「イルカ。夕日を見に行こうか」
誘う相手は嬉しそうに頷き、手をぎゅっと握って歩き始めた。
暇があれば海に泳ぎに行き、夕方にはラグーンに沈む夕日を眺める。毎日毎日その繰り返しなのだが、飽きることがない。
蒼い空が一面に茜色に染まり、だんだんと蒼と混じり合ってラベンダー色に変化していく。最後には濃い紫色が真っ黒の闇に変わるまで、いや変わってしまってもしばらくは二人で静かにそれを眺める。降ってきそうなほどの満天の星が輝く空も切り取られた日常の一部なのだ。
「カ・カシ。家に帰ろう」
「そうだね。帰ろう」
また二人で肩を並べて家へ帰る。
そんな毎日。


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