朝食の後、なぜかアスマが学校を見たいと言い出して、三人で連れ立って歩いていたとき。
「イルカ先生ー!」
遠くから大声を張り上げながら駆けてくる子供がいた。
「ナルト、おはよう!」
イルカに一番懐いているナルトだった。
成績は芳しくないのだが、学校に来るのはやけに楽しそうな子だ。早くに両親を亡くしていることにイルカも共感したらしく、一番気にかけて可愛がっていた。
これほど慕ってくれば、俺も確かに可愛いとは思う。しかし、だからといってイルカの腰に抱きつこうとするのを黙ってみているわけにはいかない。
「はい、おはよー」
首根っこを掴んで、猫の子のように吊り上げてブラブラさせると、悔しそうな顔が目の前にあった。
「ちぇっ。おはよう、カカシ先生」
地面に降ろしてやると
「今日も駄目だったかー」
と言う。
確信犯だ、こいつは。ゲーム感覚でやっているからまだ可愛げがあるが、本気だったら許さないところだ。
「今日は天気がいいから学校は休みにしようってばよ」
「お前はカメハメハ大王か」
「何それ」
「南の島に住むカメハメハ大王は怠け者だったから、風が吹いたら遅刻して、雨が降ったら休んだそーだ」
「へぇ、なんかカカシ先生みたいだ。シシシ」
よく考えてみれば、俺はこの島の王様のようなものか、と思い至った。
それならば、何も毎日無理して授業をしなくてもいいんじゃないか。なんといっても王様なのだから。
せっかくだから今日はイルカと過ごそう。
自分の思いつきに少し悦に入った。
「イルカ。今日は学校は休んで、二人で海に見に行こう」
「おい。ガキ共はどーすんだ?」
アスマが注意してくるが、今日は大丈夫なのだ。にんまりと笑う。
イルカも心配しているのか不安げな視線を向けてくるので、安心できるように言ってあげる。
「大丈夫。泊めてやってるお礼にアスマが授業やってくれるってさ」
「なんだと?」
抗議の問いがあっても気にすることはない。
「本当に?」
「ホントホント。こう見えても結構頭がいい熊なんだよ」
「熊は余計だ!」
それを聞くと、イルカはぱぁっと顔を輝かせた。
「アスマさん、ありがとう」
にっこりと笑ったイルカに勝てる人間などいようか。
「いや。まあ、泊めてもらってるからな…」
少し引きつった笑顔を返しながら、アスマも了承せざるを得なかった。
それを横目に見ながら俺は気分良くイルカの手を取り、照りつける太陽の下を走り出した。


●next●
●back●
2003.07.26


●Menu●