家の中で何かが動いている気配で、眠りから覚めようとしていた。その気配が徐々に近づいてきて、頬に柔らかい感触があたって、さらに心地いい目覚めになりつつあった。
「カ・カシ、おはよう」
「おはよう、イルカ」
正式なおはようのキスをしようと腕を伸ばして捕まえようとしたら、するりと逃げられてしまった。
離れて行ってしまう後ろ姿を追うついでに部屋を見渡すと、籐の長椅子からにょっきりとはみ出た足が見えた。
ああ、そういえばアスマが泊まったんだっけか。
ようやく思い出した。
その途端、目が合った。
「おはよう」
「…………」
「おい。こんな長椅子に眠らせておいて、挨拶もなしかよ。カカシ」
「泊めてやるとは言ったが、何処にとは言ってない。床じゃないだけありがたいと思え」
「やだね、心の狭い男は。まったく」
アスマはぶつぶつと言い、身体を伸ばして呻き声をあげながら外に出ていった。朝の空気でも吸いに行ったんだろうか。
しかし、俺が少々不機嫌になっても仕方ないというものだ。愛する二人がスキンシップを求めるのは至極当然な行為じゃないか。それをことごとく邪魔されているんだからな。
どうしてイルカはあんな髭に遠慮して、あんまり触らせてくれないんだろうと少し悲しくなった。
物思いに耽っていると、庭の方からコッコッと鶏の鳴き声が聞こえてくる。
そういえば、アスマに言い忘れていたことがあった。
「あ、それ野生だから。気をつけろよー」
戸口に立って声をかけたが、時すでに遅し。
どうやらヒヨコに触ろうとしたらしく、親鳥の猛攻撃を受けていた。
「野生ー!?野生ってなんだ!」
なんとか腕で防御しながら逃げている。
「野生は野生だよ。ははは、がんばれー」
ようやく親鳥も諦めたらしく、雛を連れて去って行った。アスマは少し息を切らしながら戻ってきた。
「飼ってる鶏じゃないのか?」
「うーん。ここら辺じゃ飼ってても食べないしなぁ。うちは野生のが来るくらいで充分だな」
「充分って何が?」
そこへイルカがやってきて、朝飯の支度が出来たと呼びに来た。
「さっき庭に鶏がいたぞ」
アスマが言うと、イルカは笑って頷いた。
「あれ、虫を食べてくれるトリ」
「つまり、普通は害虫を食べさせるために飼っているのか?」
「そうそう」
「へぇ。食べる為じゃないのか。カルチャーショックだな」
驚いて肩をすくめるアスマに、もう一つ言うことがあった。
「それと、あそこにあるのはお墓だから踏んだりするなよ」
「えっ、どれだ?」
「あの白い四角いの」
「庭にあるのか!」
「それもここらじゃ普通らしいよ」
あの墓の中にはイルカの両親も入っていて、いつか俺の骨も入るだろう。イルカと共に。
「さ、イルカの作った朝食を食べよう、ね?」
イルカに向かって言うと、にっこりと笑って家の中に招き入れようとする。一生懸命な姿がまた可愛いな、と考えながら家の奥へ入っていった。
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