イルカともう一人、銀色の髪をした男が連れ立って入ってくる。
仕立ての良さが見ただけでもはっきりとわかる羽織を引っかける男と、色鮮やかな着物や簪で着飾った花魁姿が並んで立っているのは一枚の浮世絵のようだった。それはまるで別世界のようで、ナルトは財布をぎゅっと握りしめることしかできない。
イルカが今までに見たこともないような嬉しそうな笑みを浮かべていて、さらにナルトを驚かせた。
「久しぶりの若旦那のお越しだからねぇ。太夫の嬉しそうなことといったら!」
「ずいぶんとご無沙汰だったからね」
「なんでも船で遠い異国まで行って、珍しい品物ばかり買い付けてきたらしいよ」
「へぇ、それじゃあはたけ屋はまた大もうけだ。あやかりたいもんだねぇ」
周りがこそこそと噂する声は、自然とナルトの耳にも入ってくる。
目の前を通り過ぎる二人を呆然と眺めていると。
「ナルト?」
ふとイルカが立ち止まり振り返る。ナルトを確認すると、重い裾を汚れないよう持ち上げて寄ってこようとした。
ナルトは、存在に気づいてくれたのは嬉しくてたまらなかったが、それと同時に今の自分の姿を省みて相手との格差にかぁっと顔を赤く染めた。慌てて握りしめていた財布を後ろ手に隠す。
「またお使い中なのかい?」
ナルトは懸命に笑おうとした。
「うん。俺ってば、まだ仕事が残ってるんだ。ちょっと寄っただけなんだってばよ……」
普段より元気のない口調に、イルカは心配そうに瞳を曇らせた。
「また無茶をしてるんじゃ……」
手を伸ばそうとした時、イルカの後ろから声がした。
「イルカ。その子は?」
男の言葉で手を止め、振り返る。
「あ、カカシさん。この子はナルトと言って、昼間に読み書きを教えている子なんですよ」
「ふぅん」
ナルトのてっぺんからつま先まで、じろじろと無遠慮なくらい見つめた後、うっすらと笑った。
「こんなみすぼらしい格好をして可哀想にねぇ。これで一枚仕立てるといいよ」
ナルトは、カカシが差し出した数枚の小判をしばらく無言で睨み続けた後。
「いらない」
そう言って、外へ駆けだして行ってしまった。
「あっ、ナルト!」
イルカが呼び止めても戻っては来なかった。
「あ〜、悪いことしちゃったかなぁ」
行き場を失った小判をカカシが弄ぶ。悪いことをしたと思っているようにはとても見えなかったが、素直なイルカは信じ込んでいて慰めようとする。
「大丈夫ですよ。カカシさんは善意でしたわけだし。明日ナルトに謝っておきますから」
「明日も会うの?」
「ええ」
「ふぅん」
ずるいよね、とカカシはぼそりと呟く。
俺ですら毎日会うのは難しいのに。
そんな不満が思わず呟きとなって表れていた。
「え?」
イルカの耳には届かず聞き返すと、なんでもないと笑顔で答える。
「それより、お腹空いたねぇ」
「ああ、今用意させますね。上へどうぞ」
そう言われて、カカシは飄々とした仕草でイルカの手を取り、階段へと足を向けた。


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2005.11.26


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