【泣く子には勝てない3】


それからのナルトは本当に限界以上に頑張っているらしく、遊里の外まで使いに走ってきたとか朝まで急ぎの仕事ができたとかで、イルカに学ぶときまでうつらうつらと頭を揺らすことしばしばだった。
しばらくそんな日が続いた後、ナルトはイルカの居る妓楼へと息せき切ってやってきた。
「イルカ先生は!?」
「海野太夫は引手茶屋へお迎えに行かしゃりましたよ」
何度も顔を出すナルトを憶えた遊女が、親切にも教えてくれる。
「お姉さん、ありがと」
格子越しに礼を言うと、普段ならそうそう笑顔を安売りしない相手もにこりと笑顔で応えた。しかしその後すぐに妓楼の中へと足を踏み入れようとするナルトに、心配そうな表情を隠せない。
迎えに行ったという言葉の意味が通じなかったらしい。ナルトは、今はただここにイルカはいないのだとしか認識していない。
何の疑いもなく番頭に声をかけた。
「俺、お金が貯まったんだってばよ!」
嬉しそうに、ぱんぱんに膨らんだガマ口財布を掲げる。
「ああ、駄目ですぞ。今日はお帰りなさい」
番頭のエビスは帳面に何かを書き付けながらちらりと財布を見た後に、素っ気なく答えた。以前からかわれた恨みが籠もっているようにも見える。
「なんで!?ちゃんとお金も持ってきたんだからな」
エビスは溜息をついて筆を置く。
「引手茶屋へ迎えに行ったということは、客から指名があったということです。初会の客がその程度のお金で先客を蹴ろうなんてとんでもない」
妓楼のしきたりをよく知らないナルトは、説明されて戸惑った。
「だって、イルカ先生との約束が……」
お金が貯まったことがただただ嬉しくて勢い込んでやってきて、てっきり通してもらえるものと思い込んでいただけに、声にも力が出てこなかった。
「まあ、暇な時なら太夫たっての頼みですから考えてあげてもいいですが、今夜は無理です。相手は、はたけ屋の若旦那ですからね」
はたけ屋といえば、この遊郭を全部貸し切って総揚げの上に豪遊できるくらいの大金持ちだ。そこらのお大尽さまでも太刀打ちできない程と聞く。そんな大物を相手に対抗できるわけがないのは誰の目にも明らかだった。
「諦めてさっさとお帰りなさい」
しっしっと猫の子を追い払うように手を振られ、ナルトはその仕草に腹を立てながらもどうすることもできずに立ち尽くした。そうこうしているうちに、表がガヤガヤと騒がしくなってきた。

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