そこへ部屋の襖がすらりと開く。
「カカシ。イルカさん」
二人が声のする方に顔を向けると、そこに居たのはサクモだった。
サクモはカカシと瓜二つの顔だったが、多少年配で柔和な感じがする上、髪も長く伸ばしていたので従業員でも見分けるのは容易い。
「旦那様、何か御用でしょうか」
イルカは手を止め、立ち上がりかけた。しかし、サクモに『いいから』と制されて浮いた腰を元に戻す。
「『お義父さん』と呼んでっていつも言ってるのに」
サクモはにこにこと近づいてくる。
「でも……」
花魁だった自分が堂々と義父と呼ぶのは外聞が悪い、とイルカは考えて、いつも『旦那様』と呼んでいた。そういう控えめなところも周りの目には好ましく映っていたのだが、サクモは何かと義父と呼ばれたがった。もちろん無理強いするわけではなかったが。
「何か用?」
カカシが問うとサクモは頷く。
「実は火影堂の四代目の子供が見つかってね」
火影堂といえば子供でも知らない者のいない大店だ。不幸にも四代目は跡を継いだばかりの頃夭逝したと聞く。
「ああ。あの、生まれてすぐ誘拐されて行方知れずだったあの子供のこと?」
「そうそう。攫った人間が遊郭に打ち捨てていったらしくて、先日ようやく見つかったんだよ。名前は『ナルト』というらしい。今度連れてくるから仲良くしてやってほしいんだよ。頼めるかな、イルカさん」
「その子はナルトというんですか!」
「そう。四代目と同じ髪の色だそうだよ」
サクモの話を聞いて、カカシはひそかに舌打ちをした。
あのナルトが四代目の一人息子だったとは。せっかく引き離すことに成功したというのに、これでは何の意味もない。
苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せるカカシとは対照的に、イルカは瞳を輝かせていた。
火影堂はついに初代の孫の綱手が近日五代目に就任する話も出て、さらにイルカたちを驚かせた。
イルカが早くナルトと綱手に会いたいという諭旨を伝えると、サクモも喜んで先方にそう伝えようと言って部屋を出て行った。
カカシは機嫌の良いイルカに躙り寄って問いかける。
「ね、イルカ。俺のこと好きだよね」
「もちろんですよ」
「あのナルトって子よりも」
「何言ってるんですか?」
イルカは本当に何を聞かれたのかわからないという風にきょとんとしている。
「だってさ。う〜う〜」
イルカは抱きついて唸り続ける男に困惑しながら、よしよしと頭を撫でて慰めてやる。
「ねぇ、カカシさん。俺幸せですよ、カカシさんに出会えて。みんな好い人ばかりですけど、でもあなたがいないと俺は生きていくのがつまらないと思うんです」
「本当に?」
「ええ」
機嫌の直った若旦那は、それなら少しだけナルトに譲ってやってもいいやと思ったらしい。
その後、イルカはナルトと再会を果たし、みな幸せに暮らしたそうだ。


END
●back●
2005.12.24


●Menu●