「まあ、そう言うなよ。ちゃんと相談に乗るぜ」
確かにからかうようなニヤニヤした笑みは消えていた。
ここで言わなければ、これから会うたびにしつこく聞いてくるだろう。
それくらいなら今言ってしまった方がマシか、と思い直した。
「たとえばの話なんだけど」
「ふむふむ」
「ある中忍が上忍を好きになったとして、お前だったらどうする?」
「は?どうするって?」
アスマは質問の意味がわからないのか、逆に聞き返してきた。
「いや、だからさ」
「……お前の言ってる意味がよくわかんねぇんだけどな。好きだったら告白するもんじゃないのか?何か問題でも?」
「問題はあるだろ。その上忍はめちゃくちゃ強いんだから」
ああ、もう。コイツに相談したのはやっぱり間違いだった。
カカシは少しだけ泣きたい気分になった。
「強いって、そりゃ腕力の話だろ。力だけで生きていけるもんか?」
「でもさ。普通自分より弱っちい男と付き合おうなんて思わないだろう」
「ふーん。まあ、あれだな。人の価値観なんて千差万別だから、自分の価値観だけがすべてとは限らないさ。自分にとってはつまらないことでも、相手にとっては輝いて見えたりするモンだ。逆もアリだがな」
「そんなもんかねぇ」
「お前はお前らしくしてればいいんじゃないか。大体お前自身を好きになってもらわなけりゃ意味ないだろうが」
「そりゃあそうだけど…」
「まあ、中忍だから好きにならないってことはないさ」
でかい手でバンと背中を叩かれて、息が止まりそうなくらい苦しかったが、今まで悩んでいたことが少し薄れたような気がして嬉しかった。
「カカシ先生ー!!」
職員室に響き渡りそうなくらい声を張り上げて入ってきたのは、ナルトだった。
後ろにはサスケやサクラもいる。
「迎えに来たってば!」
顔にまで泥を付けながら、満足そうに笑っていた。
もう任務が終わったのだ。
「任務完了か?」
「もっちろん!」
「そうか。よくやったな、お前ら」
カカシはナルトの頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜてやりながら、イルカの姿を目で探していた。
「イルカ先生は先に帰って食事の支度をするから、カカシ先生を迎えに行ってきてくれって」
それに気づいたサクラが説明をする。
今この場にいない人の顔を思い浮かべて、がっかりしたようなほっとしたような複雑な気分だった。
「早く行こうってば、カカシ先生!」
ぼんやりしていたカカシの腕を引っぱりながら見上げてくるナルトは、もう楽しみでたまらないといわんばかりに目が輝いていて、苦笑させられた。
「わかった、わかった」
尻込みしていた重い腰を上げて、立ち上がった。
「じゃあな、カカシー」
ひらひらとやる気なげに手を振るアスマだったが、眼は『頑張れよ』と言っているようだった。
カカシの気のせいかもしれなかったが。
それでも前よりは気が楽になったのは確かだった。
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2002.11.02 |