【さかしまの国6】


「その唐揚げは俺のだってば!」
「名前なんて書いてない」
「書いてあるわけないだろー!」

はぁ。
カカシは溜め息をついた。
そりゃあ、子供達と夕飯なんだから、イルカ先生と親しく話せるとは思ってなかったけど。これはあんまりじゃないか?
興奮して騒ぐ子供の戦場と化したその食卓。
ふんわり卵のオムレツが各自の皿に盛られ、真ん中の大きい皿に積み上げられた唐揚げは、それは美味しそうではあるけれど。
止めてくれ! こんなに騒いだら、今までの俺の躾が問われるじゃないか!
俺に恥をかかせる気か、このガキ共は。
ゴン、ゴン。
「お前ら、静かにしろ!」
喧嘩両成敗とばかりにカカシが振るった拳は、ナルトとサスケの頭を直撃した。
「いってぇ…」
「俺は関係ねぇ」
痛みのあまり頭を抱えた二人は、ようやく静かになった。
これで安心して食べられると、カカシは安堵してスプーンを握りしめたのだったが。
イルカの顔が憂いで曇っている。
やはり騒いだのがいけなかったのだろう、もっと早く止めていれば、とカカシは後悔していた。
「カカシ先生、体罰はいけません」
は?体罰?
え?それって今のげんこつのこと?
言われた意味がよくわからず、ぼんやりしてしまった。
げんこつは普通だよな?
「これぐらいは日常茶飯事ですが…」
「えっ」
「そうそう。カカシ先生のゲンコは痛いんで有名なんだから!」
ナルトは反省した風もなく、にぱっと笑って唐揚げに手を伸ばしていた。
殴られた子供達自身が気にしてないのを見て、イルカは驚いていた。
「殴られるのは嫌じゃない?」
「えー、そりゃあ痛いのはヤだけど…でも悪いことしたのは俺の方だし。それにちゃんと叱ってもらった方が嬉しいってば。注意しないくせに嫌そうな顔して見てるだけの方がよっぽど嫌だ」
ナルトが言っているのは、多分触らぬ九尾にたたりなしと言わんばかりに接している教師のことだ。 自分の存在を主張したいがために繰り返す悪戯を、無視されてしまうことに憤りを感じている。
ナルトの言いたいことを理解して、イルカは頷いた。
「そうか、そうだね」
その後さぁーっと血がのぼって赤くなった頬を隠し、カカシに謝ろうとする。
「す、すみません。この前読んだ本にそう書いてあって…」
きっと『ナントカ教育論』とか『子供と接する50のやり方』とかそういう類の本だったのではないだろうか。
そういえば、下忍を担当するのは初めてで不安だと言っていたではないか。
もしかして自分のことを暴力教師だと思われたかもしれない、とカカシは焦った。
権力を笠に着て子供を平気で殴るような人間だ、と解釈されて嫌われてしまっては非常に困るのだ。
「いえっ、こちらこそ…あれは決して暴力とかではないので!」
顔を赤らめて言い訳しあう大人二人に、子供達は不審な目を向けていた。
が、当人同士はいたって真剣だった。ある種、滑稽なほどに。


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