本当はカカシだとて思っている。
小さい子供が死ぬのは殊更哀れだと。
けれど結局の所、誰がいっそう可哀想かなどということは論じても始まらない。小さい子供だからといって任務が消えてなくなるわけでもなく、忍びである以上それは成し遂げなければならないことなのだ。何があっても。
忍びという道を選択した時から、それは決まっている。
迷い戸惑う感情を持ったイルカは人間的には好ましいけれど、あまり思い詰めない方がいいとカカシは思う。
死についてあれこれ考えて悩んでいては、これからの任務にも支障をきたすかもしれない。それは何よりも避けたい。
それを抜きにしても、あまり心を痛めて欲しくないというのが正直な気持ちだった。
今はただ、目の前にいるイルカの気持ちを和らげたい。
「イルカ先生がその子のことをいつまでも気に病むことはありませんよ。その子はきっと幸せでした。己の信ずる道を貫き通したのだから。生きているすべてのものは、自分の望むことを叶える権利があるんですよ」
そう言って、カカシは優しく宥めるようにイルカの頭を撫でる。
イルカは少し縋るような黒い瞳をカカシに向けた。
「本当にそう思いますか?あの子は自分が望むように生きられたんでしょうか」
「実際に会ってもいない俺が言っても説得力がないかもしれませんが、とっさにその忍びを庇ったんでしょう?小さいながらも自分で考えて行動した結果だと思いますよ」
カカシがそう言ってやると、イルカは眉が下がり目が潤み始める。
「それならいいんです。もしそうだったら…いい……」
そう言って、はらはらと涙をこぼした。
カカシは慌ててイルカをそっと抱きしめ、あやすように背中を撫で続けた。よかったと思いながら。
涙が出るようなら大丈夫。凍りついてしまうよりずっといい。
「二人一緒に埋めてあげられてよかったですね」
「……そうですね」
頷きはしたもののイルカの涙はなかなか止まらなかった。
「でもね、人間なんてそれほど強い生き物じゃないから。イルカ先生がまだその子のことが気にかかるのなら、もう少し休んでいましょうか。無理して頑張る必要はないんですよ。ね?」
「……はい」
と、かぼそい返事があった。
しばらく涙が止まらないまま、イルカはじっとカカシの心臓の音を聞いているようだった。
「こうしていると、なんだか深い深い海の底にいるみたいですね」
イルカがはにかみながらそう言った途端、カカシはハッと今ある状況に気づいた。
うわー、何やってるんだ俺は!
抱きしめるだなんて、下心丸出しの男だと思われたらどうしよう!
と、誰も言ってもいないことが頭の中をぐるぐる回り始める。
急に顔を真っ赤に赤らめてアタフタしだしたカカシを見て、イルカは不思議そうに首を傾げた。しかし、それについては聞こうとはしなかった。
「カカシ先生、ありがとうございました」
とイルカは丁寧に頭まで下げてお礼を言うのだった。
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2004.01.31
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