【さかしまの国14】


誤解が解けて、カカシとイルカは途中まで一緒に帰ろうということになった。
二人連れだって歩きながらいろいろな話をするのは楽しかった。
「カカシ先生は上忍試験に推薦を受けていたと聞きました。どうして試験を受けなかったんですか?」
「んー。そんなご大層な理由はないんですがね。面倒くさくて、上忍って」
「面倒くさいですか?」
「ああ、すみません。上忍の方に向かって失礼でしたね」
「いいえ、そんなことありませんよ」
「なんていうか、任務のために身体張って命賭けて……俺はもっと自分の望むことのために生きたいんですよね。ヨタヨタ歩いていた子供たちがいつの間にか強くなっているのを見てる方が、なーんか生きてるって感じで」
「そうですか」
「俺は本当は下忍のままでも別によかったんですけど。それなのに中忍試験を受けたのは、中忍からじゃないと教師の資格がなかったからですよ。まあ、だから上忍試験なんてどうでもいいっていうか」
カカシはつい思ったことをそのまま口にした後で、しまったと思った。
あまりにも砕けすぎたんじゃないだろうか。忍びとしてあるまじき思想だ!とか何とか思われたらどうしよう。
なんとなく今までの気安さから言ってしまったわけだけれど、任務を拒否する人間、ひいては忍びや里を蔑視する人間として上司に報告されることだってあり得るのだ。
カカシは心配になってイルカの方を窺うと、特に怒ったり不快な思いをしている様子もなく、ホッと胸を撫で下ろした。
「生意気言っちゃってすみません……」
カカシが申し訳なさそうに謝ると、イルカはあまりそういったことには拘らない性質らしく、
「たしかに上忍って面倒くさいこと多いですからね」
と笑っていた。
「イルカ先生はどうして上忍になりたかったんですか?」
「俺は……強くなりたかったんです。小さい頃、両親を亡くしてしまってから強い力が欲しかった。俺も里の為じゃないから大きい声で言えませんけど」
照れているのか少し頬が赤い。しかし、忍びならば誰でも望むことだろう。
「そんなものでしょう?上忍を志すには一番まともな理由ですよ」
「でも、本当の意味の強さって難しいです」
イルカは少し眉間にしわが寄っていた。
「なかなか強くなれなくて。だからつい、もっと身体が大きくてガッチリした体型で、強い印象を与えられる外見になりたくなったりするんです。精神的に弱いから」
困ったものです、とイルカは苦笑しながら歩き続ける。
「ああ。俺の見た目がアスマ先生かガイ先生みたいだったら嬉しいんだけどなぁ!」
などと言う。
冗談じゃない、とカカシは思った。イルカ先生がアスマかガイみたいだなんてとんでもない。というか、そうである必要がないのだ。
イルカはイルカだ。たとえ今のような可愛い外見でなくても。
もしかしたら、イルカの上忍としての強さと外見のギャップでいろいろな悩みやトラブルがあったのかもしれない。
けれど、今まで生きてきたすべてがその人を構成する一部だから。その魂に変わりはない、とカカシは思う。
「おかしなことを言うんですね。どんな姿をしていてもイルカ先生はイルカ先生でしょうに」
そう伝えると、イルカは驚いたように目を見開いてカカシを見つめる。その時間があまりにも長かったため、カカシは不安になってしまった。
「え?俺、何か間違ったこと言いました?」
「……いいえ。そうですね」
イルカは首を振って否定した後、嬉しそうに笑った。カカシが見惚れるくらい綺麗な笑顔だった。


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2004.05.08


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