それから、結婚式の日はあっという間にやってきた。
椀が足りないだのおめでたい掛け軸がどうだの、誰もが目の回る忙しさだった。
当日、朝早くから作業場で紅白の団子を捏ねる男たちがいる。
「ねぇ。どうしてこんな朝早くから大量の団子を作らなきゃいけないわけ?」
「それはな。祝言で団子を配るからだ」
アスマが噛んで言い含めるようにカカシに説明する。さすが職人、その間も手は止まらない。
「っていうかさぁ。俺はその祝言の主役だよね?」
「今日の主役はイルカだろうが」
「そりゃあそうなんだけど! 俺だって主役だろ」
こんなことやってられないぜとカカシが不満を漏らすと。
「そうか。イルカが言い出したんだがな、みんなに団子を配りたいって。それなのにお前は冷たい奴だ。新妻の願いも叶えてやらないとはな。先が思いやられるなぁ」
アスマが白々しく嘆いてみせる。
「なっ、何もやらないって言ってないでしょ!」
アスマの言葉は絶大な効果を生み、カカシに黙々と団子を作らせることに成功していた。
朝食ができたとサクラが呼びに来て、それを食べるとまた作業に没頭する。二人が真剣になって取り組んだおかげで、紅白の団子の山が着々と出来上がっていった。
イルカがやってきて箱詰めを手伝い始めると、カカシの能率が更に良くなり、昼前には全て完成した。
「これ、たくさん作りすぎじゃない?」
「私がご近所さんにも配りたいって言ってしまったから……すみません」
ちょっとした文句にイルカが謝ったので、カカシが慌てて否定する。
「イルカさんのせいじゃないですよ!」
アスマが材料の目算を謝ったのではないかと言いたかっただけなのに、どうも上手くいかない。カカシはまるでそれがアスマのせいかのように睨みつけた。
睨まれた相手は動じず、笑い飛ばす。
「ここいらの連中なら、これくらいの団子なんぞぺろっと食っちまわぁ」
「それならいいんですが」
「そうですよ、イルカさん!……特にお隣なんかがね」
カカシがそう言うと、イルカも心当たりがあるようでくすりと笑う。
皆がアンコの食べっぷりを思い出して、もしかして足りなかったかもしれないと少々不安になるくらいだった。
「イルカちゃん。もう美容師さんが来ちゃうわよー」
紅が奥からイルカを呼ぶ。
「あ、はい。今すぐ行きます」
紅の知り合いの美容師が家まで来て、髪も着付けもしてくれるのだ。
さっそく準備に取りかかろうとしたのだが。
「着付けをしてるところを俺もぜひ見たい!」
とカカシが駄々をこね始め。
「お前はお前でやることあるだろ」
「だいたい準備する姿を先に見たら、花嫁御寮に会ったときに感動が薄れるじゃない」
二人がなんとか止めようとするが聞こうとしない。
「いや、大丈夫。俺はイルカさんに関しては、常に新鮮な感動を忘れない男だ!」
げんなりしそうになった時、サクラがやってきた。
「お兄ちゃん、こっちを手伝って!」
さすがに妹に助けを求められて断るのはイルカの手前ばつが悪いのか、カカシも不承不承連れられていった。
それから数時間後、イルカもカカシも別々に着付け終わり、家族全員揃って控えの間に集まった。ちょうど仲人役の自来也夫婦もやってきた。
皆が皆、普段からは考えられないほど気張った格好をしていたが、なんと言っても本日の主役、イルカの姿は皆の目を惹く。
白い掛下、白い帯に白い打ち掛け。白い足袋。角隠しで頭を覆い、胸元には懐刀と銀の扇子を差している。白い白粉に、唇には小さく紅をほどこす化粧。その姿はまさしく三国一の花嫁にふさわしかった。
紋付き袴を着たカカシがあまりの美しさに興奮して、ぽたりと何かを落とした。
「やだー、お兄ちゃん。タオルタオル!」
「ちょっとカカシ! それレンタルなんだから、鼻血なんか垂らしたらぶっ飛ばすわよ」
女性陣に責められながら、カカシはぼおっとタオルを握りしめてイルカを見つめるのに余念がなかった。
「さあ、見蕩れてる場合じゃないよ! もう気の早いお客さんは来てるんだから。カカシ、行って相手しておいで!」
綱手に命じられて、後ろ髪を引かれる思いでカカシは座敷へと出ていった。
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2009.07.25 |