結局、中忍選抜試験の説明会は散々で終わった。
あそこまで言うつもりはなかった。同棲しているという話が始終頭をかすめ、ついつい意地の悪いことを言ってしまい、口調もキツくなった。
はぁ、最悪だ。俺は子供か。
限りなく落ち込む俺を、アスマと紅がいつもの飲み屋へと引きずっていく。
たしかに飲まなけりゃやってられない。
そう思って杯を傾けたときに、アスマが尋ねてきた。
「ありゃ痴話喧嘩か」
「は?」
アスマは時々意味のわからないことを言うが、今日はいつにも増してわからない。
「だってさぁ、お前ら付き合ってるんだろ。知ってるこっちから見れば、痴話喧嘩にしか見えねぇよ」
ニヤニヤと小突いてくる。
何言ってるんだ、この髭。脳みそ溶けてんのか。
「でもよかったじゃない! 同棲までしてるなんて。あのカカシがねぇ」
「は?」
今日は紅まで意味不明だ。俺が誰と同棲してるって?
「だーかーらー、イルカちゃんと一緒に暮らしてるんでしょう? 知ってるんだから。告白したなら私たちにも言っておきなさいよ、水くさいわね」
そう言って背中を痛いくらい叩かれた。
何それ。
一緒に暮らしているのが俺だって?
そんな馬鹿な話があってたまるか。本人が知らない同棲なんて。
「何の話?」
「惚けたって無駄だぜ」
「噂になってるわよ」
ガイが言っていた噂の相手が俺だと勘違いしてるのか? 噂を鵜呑みにするような人間でもないくせに。
「なんだって二人とも噂なんか信じてんの」
だいたい今までの経緯を知っている二人がなんだってまた、と思わざるを得ない。俺が口もきけないでいるのをよく知っているはずなのだ。
「だってイルカの奴、この前しゃべってる時にうっかり口を滑らしてたぜ。『カカシさんはナスが好きですもんねぇ』ってさ」
「そうそう。可愛かったわよねぇ、慌てる姿なんか」
それを聞いた瞬間に、思わず店を飛び出していた。
なんだそれは。
なんで俺の好物がナスだって知ってるんだ。
イルカ先生が同棲しているのは一体誰なんだ。まさか俺の偽者? そうでもなければ説明がつかないことばかりだ。
今日イルカ先生の態度がいつもと違っていたのも、それと関係しているのだろうか。確かめなければ。
かねてからナルトから聞き出しておいたイルカ先生の家の扉を強く叩く。
出てきたイルカ先生はなぜか目が潤んでいて、ドキドキした。しかし、そんなことで訪ねてきたのではなかったと自分を戒めた。本当に偽者だとしたら、敵かもしれないのだ。初めて家に入るのだという感慨もそこそこに、上がり込んだ。
部屋の真ん中に座っているのが、きっと目的の同棲相手という奴だ。
「はたけカカシだーよ。未来からきたね」
目の前の男はそんな寝ぼけたことをぬかした。


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2005.10.15


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