そんなことがあって、同僚が俺のことをどうこうというのは置いておいても、カカシさんの任務の方は思わしくないようだった。勝手な憶測だが行き詰まっているように思えた。
何か俺にもできることがあればいいんだけど。
そう考えながらも、結局何もできずにアカデミーと受付所に通う毎日だった。
その日は提出された書類について聞きたいことがあって、上忍控室へと足を運んだ。
「アスマ先生。ここの部分ですが……」
紫煙を吐き出しながらくつろいでいたところに、申し訳ない思いで近づく。
「ん?不備か?」
気を悪くした風でもなく、気さくに応じてくれてホッとした。簡単な不備だと受付で直しておけ、と怒鳴り散らして相手にしてくれない上忍もいるからだ。
すぐ側に座っていた紅先生も、
「提出物はきちんと書きなさいよ」
と軽くたしなめてくれる。
「あ、いえ。ほんのちょっとしたことで申し訳ないのですが」
恐縮しながらアスマ先生に説明する。
それから不明な点もきちんと記入され、報告書として完璧になった書類が出来上がった。それを抱えて立ち去ろうとしたとき、二人に止められた。
「ちょっと休んでいったらどうだ」
「でも、仕事中ですから……」
「まあまあ。ほんの一服よ。さ、お茶でもどうぞ」
あっという間にソファーに引きずり込まれ、手の中には暖かいお茶が湯気を立てている。さすが上忍には逆らえない。抵抗するのも難しい。結局、中忍のくせに上忍控室でお茶を飲むハメになってしまった。
とはいうものの、二人とも偉ぶったところは一つもなく、話しをするのも楽しかった。つい時間が過ぎてしまう。
「……それで、そのときのカカシときたら!」
友人であるカカシ先生のことが話題に上って、笑い話のような失敗なんかに話は及んだ。
本人がいないのに聞いてしまうのも申し訳ないと思いつつ、話の中のカカシ先生はちゃんと怒ったり笑ったりする一人の人間だと感じられて興味深かった。
なんだか聞いているとカカシさんのことを連想する。もちろん本当は同じ人間なのだから当然なのだろうけど。
そんなことを考えながら話していたので、つい相づちを打ってしまったのだ。
「ああ、カカシさんはナスが好きですもんねぇ」
瞬間、その場がしんと静まりかえった。
ヤバイ!口からぽろりと出てしまった!
好物なんて何で知ってるんだ、とか問いつめられたらどうしよう。しかも『さん』づけ。
言い逃れできない。
「なーんだ、やっぱりつきあってるのね、アナタたち。もう!カカシの奴言わないからビックリしたわ」
「えっえっ、違っ……」
否定するつもりが、焦っているのでなかなか言葉にならない。
アスマ先生も紅先生もにこにこ笑っていて、疑っていないみたいだ。激しく誤解されている。
なんで二人ともカカシ先生と仲が良いのに、そんな風に思えるんだ。いつも睨んでくるあのカカシ先生が俺とつきあってるだなんて。
「わかってるわかってる。噂になってたぜ?カカシがイルカの家に押し掛けて同棲してるってさ。いやいや、安心した」
う、噂!?
噂になってるって、いったいどういうことだ!
この前受付が終わってから一緒に帰ったのを見られたんだろうか。
どうしよう。同棲なんて噂がカカシ先生の耳に入ったら非常に困る。どういうことか詰問されるに違いない。
幸い今カカシ先生は7班と波の国へ遠出の任務に出ているから、帰ってくるまでになんとかしないと!
そう思っていたら、あっさりと覆されてしまった。
「カカシも長い間留守にしてたけど、ようやく帰ってきてイルカ先生も安心したでしょう?」
もう帰ってきていたんだ。知らなかった。
最近受付所は忙しくて、他の人に報告書が回ってしまったのかもしれない。
でも安心していたんだ。だって、帰ってきたら絶対その日にナルトが会いに来てくれると思っていたから。
どうして会いに来ないんだろう。もしかして怪我したとか?
急に不安になったのと、カカシ先生の帰還に動揺して、とにかくここでのんびりしているわけにはいかないと思った。
「すみません!仕事があるので失礼させていただきます」
と上忍相手に嘘をついて、慌てて控室を退室したのだった。
●next●
●back●
2004.12.25 |