受付所に戻って報告書を確認すると、ナルトは怪我をしたけどもう治っていると書類には書いてあった。
怪我がなくてホッとした反面、会いに来ない理由が見つからなくて戸惑った。
でもそうだよな、もうアカデミー生じゃないんだから、いちいち会いに来ないよな。
頭ではわかっていても、心はなかなか納得できずにいた。寂しく思う。
しかし、きっとたまに会うくらいがちょうどいいんだ、あの子にとっては。友達もできて忍者として忙しい日々を送っているのだから。また機会があれば、一緒にラーメンを食べに行って近況を聞くこともできるはずだ。
努めて明るく前向きな結論で締めくくった後に、まだ大きな問題が残っていることに気づく。
カカシ先生のことはどうしよう。
カカシさんは内緒だと言っていたけれど、同棲しているなんて噂を耳にして詰め寄られたら、俺には誤魔化す自信がない。
ここは正直に言うべきだろうか。
やっぱりそうした方がいい。話せばきっとわかってもらえる。カカシ先生だって任務と聞けば協力してくれるかもしれない。
そう考えると少し気が楽になった。
話すとしたら早い方がいい。できれば変な噂を聞く前だといいのだけど……。今日会えるといいなぁと思いながら受付所の入り口に目を向けると、今まさにカカシ先生が扉に手をかけて立っているところだった。
その奇跡とも言える偶然に驚いて、心臓が止まりそうになった。
考えていたら会えるなんて、なんというタイミングだろう。
カカシ先生はちょうど手にした書類に見入っていて、こちらには気づいていない。
それをいいことに、まじまじと顔を見つめてしまった。普段は睨まれるのが恐ろしくて、あまり直視できなかったから、つい。
やっぱりカカシさんにそっくりだ。もちろん同一人物なのは百も承知だけど。でもカカシさんに会ってからはカカシ先生の顔を見る機会がなかったから、それほど実感がなかった。
書類の最終チェックをしているためであろう少し伏せられた目は、家で待つカカシさんを思い出させた。そして、カカシ先生も笑うとカカシさんみたいに優しく見えるのかなぁと想像すると嬉しくなった。
少し勢い込んで「お疲れさまです!」と声をかけると、その声の大きさに驚いたのか、カカシ先生は目を瞠ったまま立ち尽くしている。
いきなりすぎたかと心の中でオロオロしていると、「……どーも」とボソボソとした言葉が返ってきた。
返事をされたことで少し安堵する。
「報告書ですか?お預かりしますね」
笑って誤魔化すつもりはないけれど、しかめっ面よりもいいだろうから、笑顔で書類を受け取り確認する。
「あの……ナルトの奴、仲間とうまくやれてますか?」
今までなかなか聞けなかったことを思いきって質問してみた。
今日のカカシ先生はなぜか睨んでこない。なんだかその事実が嬉しくて、自分はちょっと浮かれているのだと思う。
それにカカシさんが、カカシ先生は俺のことを嫌ってるわけじゃないと言ってくれたから、勇気を出して話しかけてみることができたのだと思う。
今日のカカシ先生は、
「……尊敬するアナタに追いつくぐらいに」
なんて、気を遣って答えてくれる。
「そうですか!」
どうしたんだろう。今日はいい感じだ。聞いたことにもちゃんと答えてもらえるし、お世辞まで言われた。すごく嬉しい。
もしかして今までの俺は、エリート上忍なんていう身分を前にして緊張のあまり事務的な対応だったのかもしれない。だからカカシ先生も不愉快だったのかも。
そう考えると胸のつかえが下りてすっきりした気分になった。
俺が笑うとカカシ先生もにこっと笑顔になった。
あ、やっぱりカカシさんと同じだ。そう思うとますます笑みが深くなるのが自分でもわかった。
そんな時、同僚に肩を叩かれた。
「イルカ。もう時間じゃないか?火影さまから招集がかかっていただろう?」
「あ!」
たしかに時計を見ると、もう時間がなかった。
「もう行っていいぞ」
「ありがとう」
礼を言って立ち上がった。
きっと中忍試験についての説明があるのだ。だからアカデミー教師である自分も呼ばれている。
そういえばカカシ先生も招集されているんじゃないだろうか。
まだぼんやりと机の前に立っているカカシ先生に声をかけた。
「カカシ先生も呼ばれているんじゃないですか?」
「あー、はい。そうです」
ガリガリと頭を掻いている姿を見て、ふっと閃いた。
そうだ。いい機会だから、歩きながらカカシさんのことを話したらいいじゃないか。
我ながらいい考えだと思いながら声をかけた。
「あの、ご一緒してもいいですか?」と。
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2005.01.15 |