火影さまが中忍試験開催について説明するのを、ぼんやりと聞いていた。
ああ、またカカシ先生に睨まれてしまった。
男と同棲してるなんて聞いて、ふしだらな教師だと思われたのかなぁ。そう考えて悲しくなった。
せっかく今日は仲良くなれそうな雰囲気だったのに。
この集まりが解散になったら、もう一度声をかけてみよう。誤解を解いてわかってもらわなくては。
なんと説明するのが一番いいだろうかと思案を巡らせているとき、思いもよらなかった言葉が耳に飛び込んできた。
「はたけカカシの名をもって中忍選抜試験受験に推薦します」
え?ナルトたちを中忍試験に推薦する?
そんな馬鹿な!
まだアカデミーを卒業したてで、卵から孵ったばかりの雛同様なのに?
カカシ先生どころか紅先生やアスマ先生まで「左に同じ」と言いだした。
「ちょっと待ってください!」
だってまだ早すぎる。
今子供たちに接しているのは他ならぬ担当上忍師なのはわかっているが、それでもあまりにも無謀だと思った。理解してもらいたかったから、思わず口を挟んでしまった。
でも。
「……今は私の部下です」
口出し無用と言われた。
そう言われて、中忍の立場にある俺がこれ以上上忍に口答えするわけにはいかない。
ガイ先生は庇ってくれたけれど、その言葉もろくに耳に入ってこないくらいショックだった。出過ぎた真似をするな、と言われたも同然だ。
唇を噛みしめてじっと耐え、説明が終わった途端部屋を飛び出した。これ以上何かを言われたくなかった。
子供のことを本当に考えているのかとか。
自分は所詮アカデミー教師だから引っ込んでいろってことか。
さっきは笑ってくれたくせにどうしてそんな冷たい視線なのかとか。
頭の中がぐちゃぐちゃしていて、いったい自分は何に対して腹を立て泣きたくなっているのかわからなかった。
そんな混乱したままの状態で走り続け、自分の家の灯りが見えたときにようやく足を止めた。
あ。カカシさんのこと話すのを忘れてた……。
だんだんと頭が冷えて少しだけ冷静にものを考えることができるようになった。
もうそれどころじゃなかったから、と自分に言い訳するが、そのすぐ後に一体何がそれどころじゃなかったのかと自分を責める。中忍試験も大事だけれど、カカシさんのことだって大事なこと。忘れるようなことではなかったはずだ。
自分の感情でわーっと頭の中がいっぱいになって、冷静な判断ができていなかった。忍びとして失格だ。
こんな俺だから、カカシ先生が冷たい態度なのもなんだか頷ける気がしてきた。
言われたことが正論だったから悔しく思うなんて。
元はアカデミーの生徒だったとしても、今は上忍師の下で働くれっきとした下忍だ。頭ではわかっていたけど、実際事実を口にされるのとはまた違う。
中忍選抜試験にしても、推薦するかどうかは上忍師に一任されるのだから。それに口出しする権利はアカデミー教師にはない。
今まで走ってきた勢いはどこへやら、家まであと少しの距離をとぼとぼと歩く。
玄関の扉を開けようと手を伸ばした瞬間、中から扉が開いた。
「おかえりなさい、イルカさん」
カカシさんの笑顔と優しい声が心に染みて、じわっと涙が溢れてきた。
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2005.01.29 |