あっけなく訪れた別れは、俺の胸をぎゅうぎゅうと押し潰した。恥ずかしいくらい涙が止まらなくなる。
そっと目の前に差し出されたハンカチは、きっとカカシ先生のものだ。
それを自分の涙と鼻水で汚すのはどうかと思ったが、結局ありがたく受け取った。後で洗濯して返そうと思いながら。
ハンカチを片手に、しばらくその場に立ち尽くしていた。カカシ先生も気を遣って黙って側にいてくれる。
ようやく落ち着いた頃。
「たぶんちゃんと帰れたと思いますよ」
とカカシ先生が言った。
術を知っているカカシ先生が言うのだから間違いないだろう。
それならよかった、と安堵の溜息をついた。
その時、カカシ先生が聞いてきた。
「よかったんですか?」
「え?」
その言葉の意味がよくわからなかった。
「あいつについていくこともできないわけじゃなかったのに……」
ついていく。そんなことは考えたこともなかった。
だってあの人はここに居るべき人じゃないのと同じで、ついていった俺はそこに居るべき人間じゃないのだから。
カカシ先生がそんなことを心配していたなんて、思ってもみなかった。
今回のことで学んだはずだったのに。きちんと言葉にしなくては伝わらないということを。俺は何度も同じ間違いを繰り返してる。
人間だから弱いところも駄目なところもある。だけどそれはただの欠点ではなく、その人の愛しい一部なんじゃないかと思う。それをわかりあった上で、一緒に笑って過ごせるようになれれば嬉しい。十年後にカカシ先生の横に立っているのは自分でありたいと思う。
それは手の届かない明日の夢なんかじゃなくて、今日の夢になりつつある。
だから。
自分の気持ちを正直に伝えなければいけないと思った。
「いいんです。明日の夢はもう見ません。今日は今日の夢を見なくちゃ……あなたと一緒に」
自分の顔はきっと真っ赤になっているだろう。
でも、伝わらなくて誤解するのもされるのも困る。それくらいなら今恥ずかしい思いをした方がマシだと思う。
カカシ先生は俺の言った言葉を理解してくれただろうか。
きっと伝わったはず。だってカカシ先生の顔も赤くなっていたから。
「か、帰りましょうか」
俺は、差し出された手を緊張しながらそっと握った。
END
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2005.10.01 |