【青いキャンディ】


下忍に許されるCランクでもかなり下の部類にはいるだろう任務を終え、四人で帰路についていた。
その道すがら、ナルトが声を張り上げる。
「あー!イルカせんせぇー!!」
ナルトが嬉しそうに走っていって、目当ての人物の腰にタックルをかます。
「うわっ。ナルト!お前、自分の体格を考えて行動しろ」
「へへー。ごめんなー、先生。でもさ、でもさ。今日Cランクの任務をこなしたんだってば!」
「ああ!そういえば今日だったな。ちゃんと無事に終わったのか?」
「もちろん!」
自分のやったことを自慢げに話し始めるのを、その人は穏やかな黒い瞳で見つめている。
誇張した話も感心しながら相づちを打ってもらえれば、ナルトはご機嫌のようだった。俺にかけた迷惑の数々を忘れていい気なものだ。
「お前一人の手柄じゃないだろ、ドベ」
「なんだとー!」
ナルトが突っかかってくるのを軽くかわしていると。
イルカ先生がふと思い出したように小さな塊の数々を取り出した。
「これ、ご褒美な」
それは色とりどりの紙に包んである飴だった。
きっとアカデミーの生徒にあげるために買ってきたものだろう。
「えーっ!イルカ先生、今どき飴玉かよ。ダサッ」
口では文句をつけながらも、その表情はどこからみても嬉しそうで。
天の邪鬼というにはあまりにも正直者の子供。
「そういうなよ。ほら、サクラにも」
「ありがとうございます」
「ごめんな、サスケ。こんな子供騙しのご褒美なんて」
こんなものしかなくて悪かったな。
少し眉をひそめて困ったように笑った。
そんなことはない、と伝えたかったが。
「あー、イルカ先生!俺にもくださいっ!」
担当教官のカカシまで子供のように騒ぎ出して、結局口には出せなかった。
「カカシ先生は上忍じゃありませんか。飴なんていらないでしょう?」
「そんなっ。教師ともあろう人が差別するんですか。あんまりです!」
「差別してるわけじゃありません」
「じゃあ、ください」
カカシは手のひらに残っていた飴を全部取っていこうとして、抵抗されていた。
「あっ。やめてください!まだサスケが取ってないんだから」
「サスケは甘いもの嫌いだからいらないでしょう」
「勝手に決めつけないでください」
「いいんですよ。俺の部下なんだから」
カカシは理由にもならない屁理屈をこねて、あくまで俺に渡さないという姿勢だった。
「ご自分の部下を可愛がらないような人は嫌いです」
きっぱりと言い切った。
イルカ先生の口から『嫌い』という言葉が出るとは思っていなかった。
どんなときだって子供にも大人にも『嫌い』と言ったことなどない。
普段の彼からは考えられない。
サクラも驚いているようだった。
ナルトだけは「嫌いだってさー!」と喜んでいたが。
「ひどいなぁ、イルカ先生はー」
カカシはといえば、傷ついたように見せかけながら実は喜んでいるようだった。
人を傷つけるようなことは決して言わないイルカ先生。
この人は……本当に嫌いな人に『嫌い』と口にしたりはしないだろう。
なんとなくそう思った。


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