春うららかな午後。
のんびりと過ごすのが最近の休日だった。
暖かい陽の光が差し込む中、ごろりと横になって畳の匂いを嗅ぐ。
傍らにはイルカ先生がアカデミーの仕事を持ち帰って、机に向かっている。
そんな風に過ごしているうちに、かすかに桜の匂いが鼻をくすぐる。
もうそんな季節か。
「そういえばイルカ先生。初めて会った時のこと、覚えてます?」
「ああ。ちょうど今頃の季節でしたね」
そう。桜の蕾がほころび始めた今頃だった。
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暗部の任務もようやく終わり、家へと向かう帰り道。
任務が思ったよりも早く終わり、辺りはまだまだ明るいときだった。
ふと、桜の木の下にちらりと忍びの制服が見えた。
誰かが怪我でもして蹲っているのかと慌てて駆け寄ってみたものの、ただの居眠りとは。
黒い髪に鼻筋に傷。
どうやら中忍のようで、傍らに荷物を置いてはいるが、盗られても気づきそうな気配はない。
平和だなぁ。
あんまりにも気持ちよさげな寝顔に、俺も眠気が襲ってきた。
たしかにここは陽当たりもよく、かすかに吹いてくる風も肌に心地よい。
どうせ家に帰って寝るだけなら、ここで昼寝していっても変わりはないだろう。
ここなら気持ちよく寝られそうだ。
その人の隣に腰を下ろして幹にもたれかかる。
背中に暖かい幹の感触を感じると、即座に瞼が落ちてきて眠ってしまった。
気がつけば、もう辺りはすっかり夕暮れ時。
よく寝たものだ。
そういえば、隣で寝ていたあの人はどうしただろう。
そう思って視線をめぐらすと、ちょうど目を覚ましたらしく目が合ってしまった。
「あ?」
まだ寝ぼけ眼を手でこすっている姿が微笑みを誘う。
「や、おはようございます」
「え?おはようございます。あれ?」
律儀に挨拶を返すものの、まだ状況がよく把握できてないらしい。
その様子が可愛らしくて、つい声を出して笑ってしまった。
「あの?」
「いやー。あんまりあなたが気持ちよさそうに寝てたんで、一緒に昼寝を…」
「あ、ああっ!? もうこんな時間!」
そう言うやいなや、荷物をかき集め、帰ろうとしている。
せっかく一緒に気持ちよく眠っていたのに。
さっきまで同じ時間を共有していたのが、今は違う。
それを少し残念に思ったのは何故だろう。
「すみませんっ。急いでいるのでまた今度! 俺はよくここに来てますから!」
慌ただしいながらも『それじゃあ』と言い残して駆けていく。
その後ろ姿を呆然と見つめながら、これって次に会う約束?とぼんやり思った。
そう思うのは意外と楽しくて驚いた。
しばらくは任務もなくて休暇中だし、明日も来てみようか。
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