【糸し糸しと言う心・前編】


俺は人を好きになるということがよく分からない。
誰も教えてくれなかったから。
これからもきっと分からないんだ。


+++

「よお、カカシと別れたって?」
「あ、アスマ先生」
アスマがイルカに声をかけたのが聞こえて、俺は足を止めた。
イルカの反応が気になって気配を断って様子を見る。
イルカはアスマに愚痴るだろうか?
「聞いたぜ。なんか後味悪い別れ方だったってな」
「ええ。だって後味悪いほうがもう近寄ってこないでしょ?」
俺は一瞬自分の耳を疑った。
イルカの笑顔がさわやかすぎて違和感がある。
「ぶっ。あっはっはっ、そうとう怒ってんな、イルカ」
「もちろんです。こんな…珍しいオモチャ扱いされて怒らないほうがおかしいでしょう?」
「まぁな。でもそういうのは本人に直接言ったらどうだ?」
「俺は言葉の通じない人とは話をしない主義なんです」
「なるほど」
「どうせ放っといてもすぐ飽きるんだから、おとなしく嵐が過ぎるのを待ってたほうがいいんですよ」
「とりあえず今お前はフリーってわけだ。どうだ、俺とつきあわないか?」
「そうですねぇ…いいですよ。アスマ先生なら俺を傷つけたりしないですから」
「ははっ、冗談だ。お前とつきあったら、いつか『捨てないでくれ』って泣いてすがりそうだからな」
「なんですかー、それは。ひどいな」
「あっ、イルカ先生。ちょっと来てください」
「はい、今行きます。それじゃあ失礼します、アスマ先生」
「おう。またな」
立ち去るイルカの後ろ姿を見ながら、俺は少なからずショックを受けていた。
イルカのことを何もかにもが普通で平凡な中忍だと思っていた。普通すぎて興味を持った。
『俺とつきあいません?』
『いいですよ。俺はカカシ先生のこと好きですし』
誘ったら意外とすんなりOKがでて、もうすでに興味を失いつつある自分を自覚した。
あの返事が飽きるのを待つためだというならイルカは正しい。
でもその事実は、俺をひどく傷つけた。
しかも、俺はダメでもアスマならつきあってもいいと?
そんなのは許せない。
何に腹が立つのかよく分からなかったがそう思った。



「アスマ」
「なんだ、カカシ。聞いてたのか?」
アスマがニヤリと笑った。最初から俺に気づいていたくせに白々しい。
「ああ」
「ふーん。ショックうけてますって顔だな。イルカはなぁ、一筋縄ではいかねぇぞ」
「お前っ!なんで俺に言わなかった!?」
「言うかよ。俺は最初からイルカ狙いだっつーの」
「なんだと!」
「お前もまだまだだね。まあ、がんばれや」
アスマはそう言うと俺の肩をたたいて立ち去った。
俺はイルカのことが分かってなかった。
そしてアスマは本気なのだ。
そう思うと、居ても立ってもいられなくなった。
イルカに会いに行かなくちゃ。



「イルカ先生」
「カカシ先生?どうしました?」
そう言ったイルカはいつもの笑顔をうかべていた。
俺と別れたことなんかどうでもいいのか、という理不尽な怒りがこみあげてきた。
「イルカ先生。やっぱり別れるのはやめましょう」
「どうしてですか?」
「アンタ、俺と別れたらアスマとつきあうんでしょ」
「え?…ああ、さっきの聞いてたんですか。でもカカシ先生には関係ないでしょう?」
関係ない。
そんなことを言うイルカにさらに腹が立った。
「俺はイヤなんです、イルカ先生が他の奴とつきあうのは。だから別れません」
自分でも勝手なことを言ってると分かっている。
でもダメだった。もう止まらなかった。
イルカが他の奴に笑いかけるのを想像しただけで不愉快だった。
こんな言い方でイルカがやりなおすとは思えないのに。
もともと俺のことは好きなわけじゃないんだから。
「いいですよ」
「え?」
その返事に驚いた。
何故?そう思ったのが顔に出たのか、イルカは口を開いた。
「カカシ先生も少しは進歩したようですし」
「進歩?」
「前はオモチャ扱いでしたけど、今のは独占欲でしょう?まあ、多少子供じみてますけど。ようやくナルトと同じという感じかな。でも、進歩が見られるのでもう少しおつきあいしますよ」
…俺はナルトレベルか。
「どうしました、カカシ先生?」
「…いえ、ありがとうございます」
不満を隠せず、ボソボソとした声しか出なかった。
それを聞いたイルカが楽しそうに笑ったのを見て、まあいいか、と思う自分に少し驚いた。


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2001.11.11


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