いつもイルカの家には突然訪れる。
そして嫌な顔をせずに出迎えてくれることに安心する。そういうことの繰り返しだった。
たしかに子供じみているのかもしれない、と思う。
これが好きということなのだろうか。
ただの独占欲と好きという気持ちの境界線はどこにあるのか。
誰も教えてはくれない。
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「イルカせんせーい!」
「ナルト!」
ナルトが駆けていく先には、みんなが大好きな大好きな『イルカ先生』。
「もう、ナルトったら。まだ解散してないのに」
「…ふん」
サクラもサスケも口では不満を漏らしながらも嬉しさを隠しきれないようだ。
誰にでも好かれるイルカは、いつもみんなに笑いかけている。
その事実は体の中にモヤモヤしたものを生じさせる。
胸焼けのようにも思うが、それとは少し違う?
とにかくそんな状態になるのは嫌だった。
「俺、イルカ先生のこと好きだってば!」
「ナルト。俺もだよ」
「特別好きってことだよ?」
「ああ」
そんなことを言ってじゃれついてる二人。ムッとする。
特別って何だ。
つきあってるのは俺なんだから、特別は俺でしょ?
「ざんねーん。イルカ先生の特別は俺だよー」
イルカの後ろから抱きついてそう言うとナルトが反発した。
「なんだよ、それ。俺だってば!」
「俺だ」
「カカシ先生のオタンチン!」
「なんだそれは!」
このガキには一度思い知らさなきゃならん。
「二人とも子供ね」
サクラの言葉に固まってしまった。
二人とも子供…。ナルトと同じ。そうなんだろうか。そう思うと悔しい。
でもナルトの好きと俺の好きは同じなのか。
そうとは言い切れない。どこがどう違うのだろう。
「じゃあ、みんな気をつけて帰れよ」
ぼんやりと考えている内にナルト達は帰るらしい。
「カカシ先生?どうかしましたか」
「イルカ先生。特別は俺でしょ?」
「ああ、そのことですか。だってナルトの特別とカカシ先生の特別は違うでしょう?」
「違うってどう違うんですか?」
「…それは人に教えられて分かることじゃないです」
イルカはそう言って困ったように笑った。
イルカは意地悪だ。先生なのに教えてはくれない。
「他の人間に笑いかけるのは止めてください。イヤです」
「でも…」
「約束してください」
「できるだけ努力はしますけど、約束はできません」
そんなことを言うイルカ。結局俺のことを手間のかかる子供だとしか考えてないんだ。
俺とつきあってるはずなのに。
でもイルカの笑った顔を見るのはいい。
ずっと俺だけに笑いかけてくれればいいのに。この人の特別になりたい、そう願う。
その日の受付は混んでいて、俺はイルカの受付には並べなかった。
つまらない。
「はたけ上忍。確かに報告書を受け取りました」
「はい、どーも」
「あの……今日お時間ありますか?」
「え?」
「あの、あのっ…一緒にお食事でもどうでしょうか…」
その誘いを聞いて考えた。
イルカはみんなに笑いかけて狡い。
みんなを好きで狡い。
俺が他の人に笑いかけたらどうするだろう。
その考えはすごく良い考えのように思えた。
「あー、いいよ。じゃあ、後で」
にっこり笑って返事をする。
イルカの視線が俺に向いてるのを確認する。
だって俺だけムカムカするのはイヤじゃないか。
これぐらいしたって許されるだろう?
そう思って受付を後にしようとすると、柱に寄りかかっているアスマに声をかけられた。
「お前って予想を遙かに上回るアホだったんだな」
ムッ。
「なんだよ、それ」
「いや、いい。馬鹿は死ななきゃ直らんって話さ。じゃあな」
言うだけ言って去っていくアスマに腹が立つ。
俺のどこが悪いっていうんだ。
悪いのはイルカだろ?
誰にでも優しいくせに俺には何も教えてくれない。
アカデミーの窓から見る空はだんだん黄昏てきて俺を悲しくさせた。
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2001.11.11 |