「うわ。ホントに俺って超運が良くて幸せ者?」
「はい?」
驚いて慌てて目を開けると、目の前のカカシ先生はそれはそれは嬉しそうに笑っていた。
ここは怒るところだろ?なんで笑ってるんだろう。
「あの……?」
「だって。記憶がないときの俺は本当に幸せだったから。目が覚めたら夢だったけど、でも必ずしも叶わない夢じゃなさそうだし」
「え?」
「あのね、イルカ先生。俺もあなたのこと好きですよ」
「ええっ!?」
そんな馬鹿な!と叫びそうだった。
俺の方こそ夢を見ているんだろうか。
「ずっと前から好きでした。実は十五夜のときに告白するつもりだったんです」
しゃべっているカカシ先生をぼーっと眺めてしまう。
「ああ、でも嬉しいなぁ。イルカ先生が俺のこと好きだなんて。いくら俺に記憶がないからって、恋人だと言ってくれるなんて」
はっとした。
そうだ、嘘をついた事実は消せないのだ。
「嘘をついてすみません!許してもらうためならなんでもします」
「えー、いいですよー。俺は嬉しかったし」
カカシ先生が気にしなくても、俺はきっと自分を許せない。拳をぎゅっと握りしめた。
「じゃあ、このまま一緒に暮らしましょう」
「ええっ!」
「嘘をついた罰ですよー」
へらっと笑うカカシ先生。
それは罰になるんだろうか。
何か違う気がして悩んでいると、
「記憶が戻ってから1時間も経たないうちに恋人同士になったんだから、イルカ先生は嘘なんかついてないですよ」
と言って、軽くキスされた。
「だいたい記憶が戻ったのだって、イルカ先生との約束を守るためだったわけだし」
そうだった。以前のことを思い出すほどの大切な記憶の鍵は、あの約束だった。嫉妬するくらいだったのに、それが自分との約束だったなんて。
嬉しくてこそばゆい気もするし、呆れて気が抜ける気分でもある。複雑な心境だ。
でも、よかったと思う。
大事な記憶があの約束ならば、これから先、心安らかに眠れる気がする。
そして、自分の記憶がもしなくなったとしたら、何が思い出すきっかけになるだろうと考える。
「カカシ先生。約束してください」
「はい」
「冬なら雪を、春なら桜、秋なら紅葉なんていいでしょう。これからずっと一緒に見ましょう」
「いいですけど?」
少し不思議そうに首を傾げるカカシ先生に、言葉を続ける。
「たくさんたくさん約束しましょう。いつでも思い出せるように」
そう言うと、カカシ先生はわかったというように破顔した。
「いいですね。たくさん約束しましょう」
そう言ってくれた。
たとえば何でもない些細な約束。
けれど、その人にとっては何よりも大切だったりするかもしれない。
うまく記憶に辿り着けないようになっても、いつかした約束はきっとたぶん守られるだろう。
END
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2003.11.22 |