翌日。
「昨日は散々だったんだからな」
昨日のことを同僚に愚痴ってみる。
『ははは、悪い悪い』と謝ってもらって、それでおしまいにしようと思っていた。
だがみんなの反応は違っていた。
「それって……」
そう言ってから口をつぐみ、他の奴と目配せしている。
なんだろう?
「なに?」
「いや、その『可愛い人』ってさ……お前のことなんじゃないのか」
「は?何言ってるんだ。『可愛い人』だぞ」
「えー、イルカは可愛いよな。お前、自覚がなさ過ぎ」
「ぶっ。な、なにバカなことを」
「いや、マジでマジで」
「そっかー。カカシ上忍の好きな人ってイルカだったんだ」
「やっぱりね。たしかカカシ上忍の家って里の西の方じゃなかったか?イルカの家と別方向だろ。だから怪しいと思ってたんだ」
「そうなのか!わざわざイルカと帰るために回り道してんだ。へぇー、意外だ」
「カカシ上忍でも本命には古風な手、使うんだな」
「だって相手がイルカじゃあな」
「そうだな。はははは」
同僚達の言葉がなんだか遠くに聞こえる。だって何を言っているか理解不能だ。
可愛い?可愛いってなんだ。
本命って?
頭の中がぐるぐる回ってる気がする。
「じゃあ、幸せにな」
「応援してるからな」
「がんばれよ!」
いつの間に全員一致で応援するという方向に決まったのやら。
呆然としている間に全員がイルカの肩をたたいて去っていったことに気づいたのは、もう辺りに夕闇も迫る時刻だった。



「イルカ先生、帰りましょ」
「あ、はい」
ついいつもの条件反射で、カカシ先生に声をかけられると返事をしてしまう。
どうしよう。きっと何かの間違いだ。
そうだ。そうに違いない。
だって俺のことを好きになる人なんているわけない。
ただの中忍で、何の取り柄もなくて、顔も平々凡々。今まで告白されたためしがない俺。
あ、自分で言ってて落ち込んできた。
「イルカ先生?」
はっと我に返る。
気づかないうちに、もういつもの門まで来ていた。無意識でも足は動くものだな、とどうでもいいことで感心してみる。
「あ、すみません」
「今日はなんかありました?」
「いえ、なにも」
笑って誤魔化そうと思ったけど、どうしても気になってしまう。
「カカシ先生。聞いてもいいでしょうか」
「はい、なんでしょう」
「カカシ先生のお宅は西の方だと伺ったのですが……」
そういった瞬間、額あてと口布でほとんど隠されている隙間からのぞく地肌が赤く染まるのが見えた。
さすがに鈍い俺でもわかった。


カカシ先生はどうやら俺のことを好きらしいのだ。


●next●
●back●
2002.01.05


●Menu●