【恋のはじまり・後編】


そう、カカシ先生はどうやら俺のことを好きらしいのだ。

はあー。
最近は気がつくとため息ばかりついている。
カカシ先生に話しかけられても、そのことばかり気になって、緊張して、あまり話をするのが楽しくない。
つまらなかった。
顔には出していないつもりだったけど、さすがにカカシ先生も俺の態度に気づいたようだった。
少し悲しそうに笑われて、胸が痛んだ。
ホントはカカシ先生のせいじゃない。
ただ俺自身がそういうことに慣れてなくて、ワタワタして舞い上がってわけが分からなくなるだけなんだ。
カカシ先生が好きなのかそうでないのかも分からなくなってしまう。
頭の中がグチャグチャだ。こんな頭じゃ答えなんて出せない。
以前一度だけ『好き』と告白されて付き合った人がいた。
好きと言われると、自分も相手を好きな気分になってしまう。
その人が俺に飽きて別れたとき、本当に自分はその人のことが好きだったのかどうかすらわからなかった。
好きと言われている間だけ好きなんて。
そんなことはもう一度だけで十分だと思った。
好きかどうかわからないのに、付き合ったりするものじゃない。相手に対しても失礼だ。
そう考えている一方で、やっぱり間違いじゃないかと思う。
はっきり本人から言われたわけでもないのに勝手に決めつけていいはずがない。
でも、もしそうだと断言されたらどうしたらいいのかなんて分からない。自分がどうしたいのかも。
すごく困る、こんなのは。
はあー。
今日で何回目かのため息。
「なんだ、イルカ。悩みでもあるのか?」
ため息ばかりの俺に同僚が心配して話しかけてくる。
でもそんなこと相談できるはずがない。
「うん、まあ……」
と言葉を濁して誤魔化すと、それ以上は追求してこなかった。
「まあ、人生たまには困るのもいいよな。うん、うん」
訳の分からない理由で納得され、励まされてしまった。
でもそんな風に言われると、単純な俺は『そうか、困るのもいいものなのか』と思ってしまうじゃないか。
たしかにこれまでは何も考えようとしなかったから、何も変わらなかった。
真剣に考えてみるのもいいかもしれない。


●next●
●back●


●Menu●