ある日、イルカを訪ねてくる人がいました。
「えっ!ナルトが怪我を!?」
その人と話をしている途中、イルカが大声をあげました。
その後何かを話しているようでしたが、内容までは聞こえませんでした。
王子は気になって仕方ありません。
「弟なんです」
来訪者が帰った後に聞いてみると、そう答えました。
「怪我をしたらしくて……でも、大したことはないみたいです」
そう言っていますが、イルカの顔色はあまりよくありません。
きっとイルカは弟の元に帰るだろうと王子は考えました。
怪我をした弟を放っておけるようなイルカではないのです。
もう一緒にはいられない。
そのことで頭がいっぱいになった王子は、悲しげな瞳で何かを言いたそうにしているイルカに気づきませんでした。
「おやすみなさい、カカシさん」
「おやすみ」
明日になればもうイルカはいないのだと思うと悲しくてたまらない王子でした。


次の日の朝。
「イルカは?」
王子はいないことがわかっていて思わず聞いてしまいました。
すると侍女が泣きそうに顔を歪めます。
「王子様、昨日でちょうど一週間だったんですよ」
最初何を言われたのかよくわかりませんでした。
我慢できずに涙を零しながら侍女は言いました。。
「昨日までに王子様を笑わせることができなかったので、今日死刑に処されます。今頃はもう……」
毎日が楽しくてあっという間に過ぎるので、忘れていました。
一週間が経ってしまっていたなんて。
王子は思わず部屋を飛び出して、走りました。
自分は馬鹿だ。うかつにも気づかなかったなんて。
昨夜イルカが何か言いたげだったのは、だからだったのだ。
それなのに自分は、と王子は走り続けながら悔やみました。
早く。
もっと早く足が動いてほしい。
どうか間に合ってくれ。


王子が扉を開けた瞬間、今まさにイルカに向けて剣は振り下ろされるところでした。
「やめろ!」
そうは言っても、振り下ろされた剣はすぐに止まるものではありません。
剣はイルカを傷つけ、血が噴き出します。
「イルカ!イルカ、死ぬな!」
倒れたイルカを王子が抱きとめて叫びます。
泣き出しそうな王子を見て、イルカは悲しくなりました。
「ごめんなさい。笑わせるどころか泣かせるなんて、俺ってホント駄目な…や…つ……」
「イルカ! …誰か医者を呼べ!」


それからは大騒ぎでした。
イルカの傷は酷いものだったので、城中のお医者さまが集められました。
ちょうど運のいいことに、大蛇丸さまの妹・綱手姫が城に遊びに来ており、治療にあたりました。
綱手姫はここらでは有名なお医者さまなのです。
そのおかげで、長い間意識が戻らなかったものの、死んだりすることはありませんでした。
「…カカ…シさん?」
うっすらと目が開きます。
「イルカ!」
「俺…死んでないんですか」
「そうだよ。もう少しで死にかけたけどね。ごめんね。俺が笑わなかったせいで、こんな酷い目にあって……」
王子が謝るとイルカは首を横に振りました。
「いいんです。どっちでも同じですから」
「同じ?」
「あなたが笑っても俺は家に帰って、城には居られません。笑わなくても死刑になって、結局もう会うことは叶わない。だからどっちでもよかったんです」
「それって……俺のことが好きってこと?」
王子が恐る恐る聞くと、イルカは頬を染めながらも困ったように頷きました。
「……はい」
「本当に!?」
「ごめんなさい。あなたのことが好きです」
申し訳なさそうに、今にも泣き出しそうに呟きました。
王子は嬉しくなりました。
まさかイルカもそう思ってくれているとは、思いもよらなかったからです。
「俺もイルカが好きだよ」
王子は喜びのあまり、花がほころんだような笑顔でそう告白しました。
最初は信じられないという表情だったイルカも、王子が何度も言うことによってようやく信じられました。
「これからまた、毎朝起こしにきてね」
王子にそう強請られます。
「でも、もう一緒には……」
悲しそうに否定すると王子は言いました。
「イルカはどんな望みも叶えてもらえる権利を持っているんだよ」
「え?」
「だって俺を笑わせたんだから、ね」
そう言って王子は嬉しそうに笑いました。
王子を笑わせることができたイルカに、叶わない望みなどないのです。
「これからはずっと一緒にいよう」
イルカは泣きそうになりながら、一生懸命こくこくと頷いたのでした。


笑わない王子は、大好きな恋人といるときだけは優しく笑うようになりましたとさ。
めでたし、めでたし。


END
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2003.02.15


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