【笑わない王子】

参万打記念フリー配布SS


ある国に一人の王子がいました。
その王子は、笑わないことで有名でした。
すでに王様の火影さまが亡くなってしまっていたため、もうすぐ王様を継ぐことに決まっているにもかかわらず、皆が皆氷のような王子に近づかなくなりました。
持ち前の端整な顔立ちや頭脳の明晰さがあっても、『笑わない』という事実を前にしてどんな魅力的も少々色褪せるのでした。
周りがどんなことをしてもクスとも笑わなくなったことに困ったお妃・大蛇丸さまは、王子を笑わせた者にはどんな望みも叶えるというお触れを出しました。ただし、1週間のうちに笑わせることができなかったら、死刑という決まりです。
そんな恐ろしい条件でも、どんな望みも叶えてもらえるという褒美のためにたくさんの人達が集まってきました。
けれど、一人も王子を笑わせることはできなかったのです。
だんだんと王子を笑わせようとする者は減り、ついには一人もいなくなってしまいました。
困り果てたお妃様は、平民の中から無理矢理連れてきて、お触れの内容通りのことを強制させようと考えました。
その最初の白羽の矢が当たった運の悪い若者は、イルカと言いました。
宮廷占い師のいい加減な占いで決まってしまったのです。
イルカは両親を亡くしてから、弟のナルトと細々と木こりをして暮らしていました。
今までたくさんの人が挑戦して駄目だったのに、笑わせるなんてきっと無理だとイルカは思っていました。きっと一週間後には死刑になってしまうことでしょう。
けれど、お妃様の命令に逆らえば可愛いナルトまで殺されてしまうのがわかっていたので、大人しく城へ出向いたのでした。


目の前に立っている王子をちらりと窺って、イルカは思いきって声をかけました。
「あの……王子様」
「カカシ」
「は?」
「俺の名前はカカシ。『王子様』って名前じゃなーいよ」
「あ。……じゃあ名前を呼んでいいのですか?」
返事はないけれど、頷いてくれたので少し嬉しく思います。
こんな高貴な人の前に出たことなど今までになく、とても緊張していたのですが、たった一言で肩の力が抜けました。
「カカシ様」
「『様』はいらない」
王子は無茶なことを言います。
『様』をつけないなんて、平民の自分が許されることではありません。もちろん貴族だって無理ですが。
けれど、他ならぬ王子の命令に逆らうこともできません。
「では……カカシさん…?」
王子はちょっと考え込んだ後、その呼び方でもいいと言ってくれました。
少しだけ安心したイルカは、改めて王子の顔を見る余裕ができました。
色白の肌に、整った目鼻立ち。
切れ長の瞳は、片方ずつ色が違っているのが印象的です。
男の人でも綺麗な人はいるものだ、と感心するくらいでした。
「何?」
イルカは、自分が王子の左眼をじーっと見つめていたことに気づき、慌てました。
「色が違うから気持ち悪い?」
「いえっ、すみません! つい綺麗だなーって思って……」
「綺麗? みんな血の色みたいで嫌だって言うけど」
「ええっ。どうしてみんな、そんなこと言うんでしょうか。すごく綺麗なのに。宝石みたいだ」
イルカはちょっとウットリしました。
滅多に見ることすら出来ない宝石のように、目の前で陽の光を反射して輝いているのです。
素直に誉めるイルカを前に、王子は戸惑っていました。
それと同時に、自分の方こそ黒曜石のような瞳をして何を言ってるんだろう、と少し可笑しくなりました。
「名前は?」
「あ!イルカです」
「…イルカ」
「はい。今日から一週間よろしくお願いします」
イルカはにっこり笑いました。
いつもなら一週間も側でうるさくされてウンザリでしたが、今日は何故かそれでも別にいいかなぁと思う王子でした。


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