「明日から任務ですよね。今夜見たいですか?」
「ぜひ!」
目の前にいる人が側にいればいいと思うのは本当の気持ちだけど、舞を見る機会を逃すほど馬鹿じゃない。
「じゃあ、こっそり。他の人には内緒ですよ」
そう言って、目の前の人は茶目っ気たっぷりに笑った。
本来ならば神に捧げる舞を人のために舞うなんて、他に知られたらもしかしたら懲罰ものかもしれない。
そんなことをして大丈夫なのか心配になって尋ねると、
「どんな理由であろうと、舞を捧げるのは神様だけです。それをカカシ先生が見ていたからといって価値がなくなるわけじゃありません。舞台で舞うのは一度きりですけど、だからといって普段捧げてもかまわないんですよ。偉い人達は頭が固くて嫌がりますけどね」
だから内緒です、と笑って言った。
本当は、舞自体は写輪眼でコピーしたから俺にも舞えると思っている。でも、たぶん俺じゃ違う。
きっと他の誰でも違うと思う。あなたでなければ。
神様だって、他の誰かが舞うよりもあなたがいいと思うに決まっている。俺が神だったら絶対そう考えるだろう。


人がいないことを確かめて神社に忍び込むのは、職業柄お手の物だ。それでも何か子供が悪戯をする時のようにワクワクする。
祭りが近いため、もう舞台は出来上がっていた。
板の上にすらりと立つのは、あの時の小さい子供ではないけれど、神を前にした緊張感は紛れもなく同じだった。凜とした、透き通った空間。
ゆったりと動いているように見えて、実際あの二本の太刀を受ければ致命傷も免れないような太刀さばきに目を奪われる。
けれど、人を切ることを目的としない太刀は、透き通って美しかった。何よりも存在感があり、何よりも強さがある。
言祝ぎの代わりに捧げられる舞。
神も捧げられて満足しないはずがない。
終わってしまうのが至極残念だった。
最後に礼をするのが決まりなのか、お辞儀をした後に真っ直ぐこっちを見た瞳に、あっと声をあげそうになった。
ああ、そうだった。あの瞳だった。
どうして忘れていたんだろう。
同じ人だった。
同じ人にまた恋をしていたんだ、俺は。
笑いがこみ上げてくる。
自分がこんなにしつこい人間だとは思わなかった。
「あははは」
「カカシ先生?」
「すみません。なんでもないんです。好きです、イルカ先生。大好き」
ぎゅっと抱きしめて、もう離したりしないと心に誓った。
きっと、何度でも恋をする。
あなたに永遠に恋してる。
これだけは間違いない。
そう思う。


END
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2003.07.12


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